第82話 咆哮搏撃 ほうこうはくげき

「逃がした?なにから?」

「俺からだ」

「逃がさなきゃならないようなことをするつもりなの?」

「……口は回るな、さすが女教皇プリエステス

「ふっ…あなたは愚者ザ・フールだったかしら」

「酷いあだ名だ…傷つくよ」

「ウソおっしゃい…あなたは持たざる者、王に対抗できる唯一のカード、失う物がない者」

「ハハハハッ、確かに無いね」

「そう、だから強い…」

「強い?」

「そう…強い、だけど亜紀人は玩具にさせない」

「彩矢子、キミはNo42フォウツゥに肩入れしすぎる、過保護だよ」

「当たり前でしょ、甥だしね」

「そう…キミは姉の面影を見ているんだろ?」

「バカなことを…」

「そうかな?彩矢子、キミは姉を研究者として尊敬しながら、女として嫉妬していたんじゃないか?」

「嫉妬?」

「それが、母となった姉を見て…落胆したんだ」

「知った様なことを…」

「あの飛行機事故を提案したのは…キミだろ」

「………」

 彩矢子は、No9ナインから視線を逸らした。

「図星だな」

「必要なのは亜紀人だけ、当然の判断よ」

「あんな危険な賭け、さすが女教皇プリエステスらしくはないね」

「死なないという確信はあったわ」

「そう…彼は事故なんかでは死なない、殺せない男、だけど保護する術は無数にあったはずだ」

「実証させる必要があったのよ、亜紀人こそが唯一無二の存在だとARKにね」

「それにしては、捜索はそれほどでもないんだな」

「あの場に居なかったことで、どこかに連れ去られたと判断しただけ…どこであろうと生きてはいると思っていたわ」

「見たくなかったんじゃないか?」

「はっ?」

「あるいは、姉を殺した自分を見て欲しくなかった?」

「ふっ…案外ロマンチストだった?あなた?」

「どうかな…彩矢子、キミは女でありすぎた…今回の件もそうだ」

「失望でもした?」

「いや…ますますキミからNo42フォウツゥを取り上げたくなった」


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