第83話 末路窮途 まつろきゅうと

「さて…いないのなら仕方ない、No5フィフスの様子を見に行くよ」

「勝手にしなさい」

「もとより許可は必要ない」


 クルッと彩矢子に背を向けて立ち去るNo9ナイン

 濃紺のスーツが酷く悪趣味に思える。

 クセなのだろう、自動巻きの時計をカシャカシャと鳴らしながら手首を振る様が癇に障る。


(私から亜紀人を取り上げる?、玩具?、いい気にさせないわ)


 応接室のソファに腰を下ろし、呼んだアオイに紅茶を淹れさせる。

「アオイ…ごめんなさいね、嫌な役を押し付けたようで」

「いいえ、彩矢子さまの、お役にたてるのなら」

「本当にゴメンなさい…」

 そういうとアオイをキツく抱きしめる彩矢子。


 同時刻、羽田空港にて、ハンバーガーを食べているナミ。

「空港って始めて来たよね~、無駄に広いね~」

「無駄かどうかは解らないけどね」

「飛行機大きい~、アレに乗るの?ホントに飛ぶ?」

「アレじゃないけどね」

「じゃあどれ?」

「ここからは見えませんよナミさん」

「え~そうなの、サクラどこにあるの?」

「行きますか?」

「もうちょっと空港散策する~」

 ナミは、初めての空港にはしゃいでいる。

「サクラ…頼むよ」

「はい…」

 サクラは亜紀人が何かを警戒していることを悟っていた。

 本当は早くチャーター機に乗せて日本を離れたい。

 亜紀人はNo9ナインを知らない。

 あの男が、亜紀人に接触する前に、彩矢子が何某かの手段を高じるはずだ。

 今、一番警戒しなければならないこと、それはナミ。


 ナミをNo9ナインの手から遠ざけること。

 さらわれるなんてマヌケな真似だけはできない。


「ナミさん、一緒に行きましょう…案内しますよ」

「うん、ユキヤもおいでよー」

「あぁ…」

 亜紀人は感じていた、なにか解らないけど…今は非常事態なのだと。


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