第72話 蠹居棊処 ときょきしょ

 湯が溜まると、ゆっくりと湯船に浸かる。

 備え付けの入浴剤を2個使い、ゆっくりと湯船に浸かる。

(はぁ~、もう2度と呼ばれたくないタイプだ…気持ち悪い)


 長い脚を伸ばして、グーンと伸びをする。

(今日はコレで帰ろ、明日、ユキヤと何処に行こうか考えなくちゃ)


 ナミは、明日の予定で頭がいっぱいなのだ。

 ハンバーガーは食べなきゃね、あとシェイクの新発売も買わなきゃ、コンビニの新商品デザートもチェックしなきゃ、先にコンビニ行こうかな、シェイクが先の方がいいかな?混んでたら困るし、冷たいのばっかじゃ冷えるから、コーヒー買おう、新商品あるかな?


 自然とウフフフと笑みが零れる。

 長い風呂が終わって、部屋に戻ると、ヒョロチビはいなくなっていた。

 ハッと気づき、お金を確認する。

(良かった~ある…下着も…ある…)

 何か盗られたような形跡はない。

 テーブルの上に、ノートが置いてあり

『先に帰る、時間までゆっくりしていくといい、清算はコレで済ませて』

 ノートには、しおりのように1万円札が挟んであった。

(ラッキー)


 自覚してるんだな~、自分が不細工で、惨めな存在だって…そうだよ、女の子と話せてもらえるだけで幸せを感じなよ、お金を払ってでもさ、アンタみたいなのは。

 有料で時間限定の夢を売る。

 ナミは、自分の仕事をそう解釈している。

 夢は幸せだとは限らない…悪夢も見る。


(アタシなんて悪夢ばかり見るんだから…)


 ナミは、ホテルの部屋で、時間までゆっくりと過ごして、楽々と退室した。

 外に出ると送迎車が待っていた。

「お疲れさん」

「うん」

「ロングどうだった?」

「うん、楽だった」

「そう、良かったね」

「今日、疲れたからコレで帰る」


 アパートの近くまで送ってもらって、自室で眠る。

(今日はいい夢みたいよ~ユキヤ)



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