第125話 虹U走遅 にじゅうはち

 5人が部屋を出ると、後ろの扉がシュッと閉まる。

 各通路の角を過ぎると扉が閉まっていく。

 誰も何も喋らなかった。

 ナミはただ、疲れていた。

(散々、歩いたあげくに…走るとはね…ヒドイよね)


 サクラと亜紀人なら、もっと早く走り抜けられる…だがサクラには彩矢子、亜紀人にはナミという足手まといがいる。

 そして引きこもりのNo80ハチマル…走ったことなど皆無である。


 出口まで後ひとつ…外が見えていた…無情にも扉は閉められた。

 それはマザーがYAMAに書き換えられたことを意味していた。


「手遅れだった…」

 亜紀人がナミの手を放した。

「なに?ダメなの?外出れないの?」

 ナミがうろたえる。


 通路にスピーカーが無いのが幸いだったかもしれない。

 YAMAは、きっと高笑いでもしてるのだろう。


 息を整えてNo80ハチマルが話し出した。

「いいかよく聞け…この扉を開ける唯一の方法だ…、ベーキングパウダーで埋まったのは遺物保管庫と各通路だ、コントロールルームには流れていない、僕がコントロールルームまで戻って扉を開ける」

「無駄だ…YAMAの支配下にある端末じゃ開けることはできない」

 亜紀人が否定する。

「できる、手動で開ける…全ての扉を一斉に開ける…」

「バカなの?そんなことすればベーキングがココにも流れ込むのよ、コントロールルームの破棄じゃない、そのスイッチは」

 彩矢子が言いながらハッと気づく。

「そうだ、あのスィッチはアナログ制御だ、だから機能する」

「だけど…アナタは間に合わないわ…それだったらアタシが行くわ…どうせ、原因の大半はアタシだし…」

「いいや…彩矢子、キミには事後処理が残っている。ARKに対しての責任を果たすべきだ…その結果が死でも…だ」

「私が行きます」

 サクラが立ち上がる。

「私の命が一番、価値がない…」

 ナミが亜紀人に抱きつきながらピクッと身体を震わせる。

「いや…僕が行こう…特異点なんだろ…奇跡を呼び込むさ」

 亜紀人が立とうとする。

「ダメ…ユキヤ…ダメ…サクラも…嫌だよ」

 ナミが泣きだす。

「特異点か、すでにここまでで幾つの奇跡を起こしてきた?ナミがいて、ナミが迷いながら入ってきて、偶然杖を持っていて、転んで突き刺して…マザーが一時的に回復して…今、スイッチが残っている…最後の奇跡は、僕の手で起こしてみたい…僕だってNo42フォウツゥと同じ神の子の血を引いてるんだぜ」

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