第54話 異域之鬼 いいきのき

 彼女は、そう言うと僕の横を車いすですり抜けて部屋を出て行った。

 残された部屋で独り、彼女に感じたのは不快感だけ?

 やはりデザイナーズベイビー同士は、どこか相容れないのかもしれない。

 好きにはなれない。

 正直に言えば、そう言ってしまう。

 だけど、No23ツゥスリーへの感情は少し変わっている。

 何かを託されたような、そんな気持ちになっている。

 No68シクスエイトにも似たような思いを感じていることも確かだ。

(だから…どうすればいいんだよ!!)

 苛立ち、行き場の無い思いを拳に込めてみても、突き出す場所さえ見当たらない。

 しばらく、研究室へは行かずに応接室のソファに座っていた。

 研究室に行ったら、何かを壊しそうな気がした。


 応接室を出たNo68シクスエイトは彩矢子の研究室にいた。

「どうだった?」

 彩矢子がNo68シクスエイトにコーヒーを差し出す。

「べつに、思ったより普通だったわ、あれが完成体とは拍子抜けしたわ」

「フフフ…まぁ、普通よ、スペックが高いだけの普通の子よ」

「感情が表に出過ぎるし」

「気は長いほうじゃないようね、でもね、ハードウエアとしては充分なのよ」

「問題は、何をインストールするか?でしょ」

「そう、で、アナタに来てもらったのよ」

「共同研究でもさせる気?」

「いいえ、アナタの研究を彼に引き継がせるわNo68シクスエイト

「なっ!! 冗談でしょ!! あれは私が主任を任されてるのよ」

「知ってるわ、でもね、もう時間が無いの、アナタじゃ限界なんじゃない?」

「冗談じゃないわ!! 第2世代の雛形を造るのは私よ」

「違うのよ、第2世代は必要ないの」

「はっ?」

「第2世代は、亜紀人の量産型になるのよ、雛形は亜紀人で決まってるの、というか…決まったのよ」

「時計の針を自分で進めたのね、彩矢子」

「時間が無いのよ、アナタの寿命だって尽きかけてるじゃない、違う?」

「データは渡さないわ」

「いいの、もう貰ってるし…」

「なっ? そういうことね…No9ナインのシナリオに乗ったのね彩矢子」

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