第7話 Garbage call 生ごみのような電話

 ラブホテルのバイトなんていいかげんなものだ。

 消防法に基づいた建築…運用、管理、そんなもの守るわけがない。

 複雑な構造、消火器なんて見当たらない。

 風営法、旅館業法、そんな存在すら知らない連中が管理しているのだ。

 不衛生な環境。


 利用する客は、火事になったら清算しないと外に出れないのだ。

 アイツらが、各部屋のロック解除なんてするとは思えない。

 有事の際にアイツらに命を預ける覚悟があって利用しているのか…。


 戦場では後ろからも弾は飛んでくるものだ…。


 アパートで温度調節も満足にならないシャワーを浴びながら、僕は背中の傷を指でなぞる…。

(そう…弾は正面からじゃない…後ろにも目を付けるくらいでないと…)


「じゃあ、後よろしく」

 勤務を交代した。

 明け方まで僕一人だ、正直、忙しくさえなければ、この時間が一番落ち着く。

 ただ、モニターを眺めるだけの無価値な時間が。


 PiPiPi…PiPiPi…


 内線電話、307号室。

 彼女が入った部屋。


「フロントです」

「あの…部屋でお客さんが…あの…血が凄くて…すぐ来てください!!」

 彼女はだいぶ慌てている。

「落ち着いて…すぐ伺いますから」

 マスターキーを持って階段をあがる…面倒なことになった。

 警察は避けたいんだが…。


 部屋に入ると、洗面台でうずくまる禿げた客。

 床は血で汚れている。

 バスローブすら身に付けていない、太った醜い身体。

 下腹部を押さえて呻いている。

 意識はある。

「警察や救急車は勘弁してくれ…」

 奥に目をやると、服を脱ぎかけたままの彼女がベッドに座り込んでいる。

「なにがあったんです?」

 男に聞いた。

「いや…その…ちょっとカミソリで切っただけなんだ…」

「どこを?」

「あのね…そのお客さん、自分でアソコの毛を剃りだして…」

 呆れて何も言えない…。

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