第8話 Hate money 口止め料

「部屋を出て、自分で医者に行くから…救急車はいい、清算させてくれ」

 僕は無言で男の顔を蹴り上げた。

 無様に壁に撃ちつけられる男。

「誰が、掃除するんだ…」

「オマエ…」

 僕はもう一度、男を蹴り上げた。

「誰が…片づけるんだ?」

 男は無言で床を拭き出した。

 僕はベッドの彼女に、男の財布から3万出して渡した。

「帰った方がいい…」

「うん…」

 彼女はおとなしく服を着て部屋を出た。


「おい、とりあえず不愉快だ…服を着ろバカ」

 僕は男の尻を蹴りつけた。

 ボデッと床に這いつくばる。


 部屋を全部掃除させたあと、清算させてタオルを持たせた。

「すいませんでした…すいませんでした…」

 ひたすら謝る男に財布を出させて、札を全部抜き取って無言で男に叩き返した。


 血の臭いが抜けない…仕方ないので窓を開けて、換気扇を全開にした。

 事務所に戻る途中、従業員用の階段で彼女が座っていた。

「あのね…時間まで迎え来ないの」

「そうか…」

「結構…怖い人なんだね…驚いた」

「あっ…いや…機嫌が悪かったんだ…たぶん」

「機嫌が悪いだけで…あぁなるの?…怖い人じゃん、フフフッ」

「うん…そうか…フッ…」

「笑った?今?」

「うん…笑ったかな…」

「そっちの方がいいよ…ユキヤ」

「えっ?」

「ん?」

「名前…憶えてたんだ…」

「うん、そこまでバカじゃないよ!! えっ?アタシの名前覚えてる?」

「あぁ…ナミさんだろ」

「ナミでいいよ お店ではコトネだけど」

「そうなんだ…本名?」

「ナミは本名だよ」

 しばらく彼女と話した。

 事務所は監視カメラが付いているから、階段で座ったまま。

 2時間ほど話しただろうか。

 彼女の携帯が鳴る。

「あっ、店からだ…もしもし…はい…これから出ます」

「そうか…」

「ねっ、コレ」

 彼女が手帳を千切って渡してきた。

「アタシのアドレス、連絡してよ」



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