第70話 痛定思痛 つうていしつう

「明日、ロングで予約入ってるんだっけ」

「うん」

「この前の人だね、いいお客さんだよな」

「だから、今日は早くあがる」


 ナミが事務所でスタッフと話している。

「予約入ってるよ、3時間だって」

「え~、3時間も?新規でしょ…なんか嫌だ…」

「ヒマよりいいじゃん、適当に話し伸ばして、しのぎなよ」

「はぁ~」

 正直言って、ロングは金にならない。

 割引されるので、取り分が減るのだ。

 まして新規、初対面の人と3時間、苦痛以外の何者でもない。

 ナミにとって客は金以外の何でもない、興味も無ければ、話したくもない。


 ホテルまで送迎されている途中も明日はユキヤに会える、そのことだけを考えていた。

 ホテルに着いて、裏口から部屋に向かう、途中で客に電話して、在室を確認する。

「初めまして…ご予約ありがとうございます」

 感情の無い棒読みのような挨拶。

 オマエなんかに触られたくない、精一杯の抵抗だ。

「先に料金いいですか? 3万8千円です…おつり?無いですけど…普通、ピッタリ用意してくれるんで…嫌がられますけど、清算機で両替します?」

 なんだか嫌な感じの男、ものすごいチビで、ガリガリに痩せている。

 そのくせ、時計はタグホイヤー…細い手首に、似合わないゴツゴツした時計。

(気持ち悪い…)

 こんなのと3時間…。


 客なんて皆、気持ち悪い…どういう気持ちで、ホテルに独りで入るんだろ?

 ホテルの従業員にもバカにされてるのに…ホント、気持ち悪い。


(さっさと手だけで済ませちゃおう)


「あ~、お風呂お湯張ってくれてないんだ~、お湯入れますね」

「お風呂準備出来るまで、アイス食べていいですか?」


 ナミは精一杯、時間を稼ごうとした。

 ダラダラと会話を続け、といってもナミが一方的に喋るだけだが。

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