第39話 Mystic Malicious 神秘的な悪意
サクラは自分が飼っているイグアナのことを考えていた。
『Q作』と名付けたグリーンイグアナ。
実験体として飼われていたのだが、処分されることとなったときに、なんとなく引き取った。
懐くわけでもなく…何を考えているかも解らない。
ただ、自分の手からバナナを食べるだけの同居人。
今日は1日空けるから、野菜にビタミン剤をまぶして出しておいた。
放し飼いだが、エサの場所は覚えているようで、そこに行けば新鮮な野菜と水が飲めることだけは知っている。
タバコでも吸えたらフーッと、ひと吹かししているのだろうけど、サクラは指でタバコを挟むように唇に当てて軽く息を吐き出した。
PiPiPiPi…
スマホが鳴る。
「早いな…」
サクラが車を玄関に回す、キッとやや荒めに停車させて降りてドアを開ける。
風俗嬢を乗せるためにドアを開ける…。
下品に舞うスカートの白さに苛立つ。
不必要に大きな声、鼻に掛かる喋り方、逢う前から嫌悪感を感じていたが、逢えばその嫌悪感が時間ごとに増していくような気がした。
(亜紀人さまは、なぜこんな女と会う為に休暇を…)
「ユキヤ~、コンビニに行こうよ~ハンバーガー食べたいよ~」
「あぁ…サクラ、どこかコンビニに寄って」
「はい…」
(ユキヤ…この人はもうユキヤじゃない、NOAを名乗る人…)
ギリッと歯ぎしりをしてドアを閉めた。
コンビニでカゴを持ってお菓子を買い込むナミを車から眺めるサクラ。
(あれが…NOA…こうしていると一般人なんだがな…人為的に造られた人間と風俗嬢…見ようによっては…いや、崩れたオブジェか)
風雨にさらされて崩れた彫刻のように見えた。
ミロのヴィーナスは手が無いからこそ…美しい。
そんな話を思い出していた。
想像する余地があり…答えが無いからこそ惹かれるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます