第132話 2巡目…80&00

 パソコンだけが世界の全てだった。

 友達はメキシコサラマンダーの『ゼロ』


 パソコンの中に在る膨大な知識。

 その中でも少年は宇宙に興味を抱いていた。

 この広い宇宙で生命は自分達だけではないと信じていた。

 心臓に病を患い。

 学校へ通うことがやっとの生活。


 少年のヒーローは、アメフト選手のスタープレイヤー。

 彼は逞しく、その走りは、全てを置いていくような加速でフィールドを駆け巡る。

 あんな風に走ってみたい。


 まさか自分の通う学校に、その選手がコーチとして務めるなんて思ってもみなかった。

 毎日のように練習を眺めていた。

 そしてコーチに話しかけられた。


 毎日のようにコーチと話した。

 色んな話を…ときには夢中になりすぎて家に帰るが遅くなり両親に怒られた。


 コーチが学校を辞めると聞いて、たまらずに外へ飛び出した。

 夕方、コーチの住むアパートまで走った。

 イメージではコーチのような素晴らしいフォームで走っているつもりでも、走ったことのない少年の姿は酷く滑稽で無様…。

 皆が笑っていた。


 そんな少年の背中に手を当て、一緒に走ってくれた、アメフトチームのメンバー。

 皆、コーチが好きだった。

 ひとり…またひとりと、コーチのアパートに近づくにつれて、増えていく…。

 息を切らして、アパートの前へ着いた。


 コーチの姿はすでになく…玄関に張り紙があった。

『走れ…そのフィールドがたとえ望んだ場所でなくても…ただ走れ…』


 20年の時が流れ…今、管制室からコーチと通信しているのは…無様なフォームで走っていた少年。

 自分の目で宇宙は見れないけど…走り続けた少年。


 彼の部屋の水槽でサラマンダーがアクビをした午後。

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