第11話 Kindergarten memory 幼き頃

 拘束されて車に押し込まれた。

 少し身体を揺さぶってみたが、どうも身動きは取れそうにない。

 つまりは老紳士はもちろん、他の連中も訓練されたプロということだ。

 だったら無駄に暴れる必要は無い。

 むしろ抵抗しなければ、なにもしないだろう。

 僕の捕獲が目的なんだから…。


 どのくらい走っただろうか、感覚では2時間ほどのはずだが…。

 目隠しもされないところをみると、見られても問題ない場所、そして面子なんだろう。

 つまり実行部隊、問題は誰の命令で動いているのか?

 場合によっては、彼らすら知らないのかもしれない。


 おとなしくしていれば危害は加えない。

 そういう態度も、やはりそれなりの訓練を受けていることの証明だ。

 ヤクザなどとは違う。

 組織はそれなりに大規模か、あるいは国が絡んでいるかだ。


 僕がおとなしくしているのには、わけがある。

 暴れても意味が無いという諦めと、自分の過去に少し興味があるからだ。

 あの老紳士は言った。

「22年掛かった」と…。

 少なくても僕は22歳か、それ以上ということだ。

 どの時点から22年掛かったのだろう?

 施設に入ってからではないのは確かなのだ。

 つまり…戦場にいたときからということになる。

 それは自分の出生を知っているかもしれない。


 今はおとなしくしていればいい…逃げるチャンスはいつでもある。


 PiPiPiPi…♪

 静かな車内にスマホの着信音が響く。

 僕のスマホだ。

 助手席の老紳士がチラッと後ろの僕を見る。

 無言で隣の男が僕のポケットからスマホを取り出し、老紳士に渡す。

「何かね?知り合いか…そんな風でもないが」

 僕に画面を見せる。

『ナミです』

 その一言だけ…。

「返してやれ…べつに持っていても問題ない。どうせ自分の過去なんて話したくても話せやしないんだから」

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