第52話 Zig Zag ジグザグ

「挨拶してきたら?」

 彩矢子が意地悪そうに笑う。

 キッと彩矢子を睨むNo68シクスエイト

「兄妹じゃないの仲よくなさいな」

「異母兄妹なのでね、仲よくってのは無理があるのよ、貴方達姉妹と違ってね」

 今度は彩矢子がNo68シクスエイトを睨む。


「そうね、明日にでも挨拶することにするわ、仲よくなりたいの」

 そう言うと電動車いすを反転させてモニタールームを後にするNo68シクスエイト

 フッと笑って、いつもの穏やかな表情に戻る彩矢子。

「それがいいわ、部屋はサクラに用意させてあるから」

 車いすを止めずに「ありがとう」と言ってNo68シクスエイトは出て行った。


「ナンバーズは扱いにくいわ、父親の影響かしら」

 クスッと笑いながら呟く彩矢子。

(さて、あの子は何を考えているのかしら)

 モニターの亜紀人の顔に指を這わす。

(ソイツは僕だ…か、何を感じたのかしらね)

 フーッと深くため息を吐いて、

「本当に面倒くさい子、姉さんのせいね」

 モニターに映る亜紀人を人差し指でコンッと弾いて、彩矢子は部屋を出て行った。


 僕は、自室に戻ってシャワーを浴びた、身体を拭きながらスマホを手に取る。

 ナミからメールが届いていた。

『楽しかったよ、今度はアタシの行きたい所に連れてってあげる』

 自分の行きたい所へ連れて行ってあげる?

 変な日本語だ。

 思わず表情が和らぐ、さっきまで心が暗く重かったから。

(彼女と生きて行けたなら、きっと…)

 そんなことを考えてしまう。

 ココを出たら、また身分を隠して働くような日雇いの貧乏生活か、あるいは汚れ仕事しか選べない。

 何でも出来るが、何もさせてもらえない。

 それが僕の現実だ。

 ここでは、何でも出来るが、何もする気が起きない。


 翌日、研究室へ向かう扉の前に車いすに座ったブロンドの女性が待っていた。

「おはようNo42フォウツゥ、と初めまして兄さん」

「兄さん?」

「ナンバー順で言えば、あなたは私の兄になるわ」

「ナンバーズか?」

No68シクスエイトよ」

 右手を差し出されたので握手した。

「兄と言ったな?」

「そうよ、異母兄妹だけど」

「父親は同じということか」

「知らないの?そうなの…へぇ」

 少し意外そうな顔で彼女は僕を上目使いで見ていた。


                             第二章 完

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