第116話 中区 じゅうく

『亜紀人、お前は特異点だ、キリストが為り得なかった存在』

「……それが自分にも解らないところだ、何をもって、僕を特異点と断言するんだ」

『我の知識にある、お前のスペック、それは優秀に高レベルでまとまった人間のソレでしかない、そのレベルは、今後ヒトが自ら造りだせるであろうレベルだ』

「だろうな」

『だからだ、そのスペックでは、お前は生きてはいないはずだから…飛行機事故で…戦場で…結果が全てなのだ。ここにお前が在る。それが特異点たる証明なのだ』

「では、お前は僕に勝てないということにならないか?」

『少し違うな、お前を殺すことが出来ないかもしれんが、他のヒト、人類を滅ぼすことはできる、それはお前の負けではないのか』

「それは、ナミのことを言っているのか?」

『かもな』

「僕がソレを望まなければ…」

『望む結果になるわけではない、お前が死なないためにナミの犠牲が必要なのだとしたら…お前は死なぬが、ナミは必ず死ぬ』

「それがキリストと僕の違いか」

『そうだな、キリストは彼は死ぬことができたし殺すこともできた』

「僕の父親は、その何体か存在するクローンのうちの1体ということか」

『それがARKの手に渡り、偶然その遺骸から精液の複製に成功して、偶然懐胎し、産まれ、いくつかの死をすり抜けて、ココに在る、それが特異点、いや…そして特異点と為ったのだ』

「結果が全て…」

『そうだ、特異点とは成るべくして為る唯一無二の存在、ひとつの宇宙に、1人だけの存在、悠久の時を経て産まれた2巡目へのセーブポイントだ』

「2巡目」

『そうだ、お前とそのパートナーだけが許される経験値の持越しが可能となる世界』

「なんの意味があるんだ」

『大いなる価値だ。お前はこれから起こることの全てを経験している。介入も改ざんも可能となる、もちろん思い通りの結果にはならないかもしれないがな』

「矛盾だな、僕が産まれて介入できる時間など、宇宙の時間からすれば瞬きにも及ばない」

『それは違う、お前は体験するのだ、その時の流れを、好きなところで止め、手で触れられる、それが特異点だ。他のモノは、その流れに流されるだけの存在』

「タマゴが先か…ニワトリが先か…」

『特異点があり宇宙があるのか…宇宙が特異点を産むのか…』

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