第50話 XX 女とは?

 No23ツゥスリーの猛攻は長くは続かなかった。

 絞り出すような咆哮と同時に突き出された拳がピタリと止まった。

「届かなかったな…」

 呟いて、ガクンと膝から床に崩れ落ちる。

 ダラリと垂れた両の腕、躍動することのない身体。

 意思を持たない身体、それはもはや物体だ。

 事切れた。

 僕はNo23ツゥスリーと呼ばれた兄弟の死体を眺めていた。

(イレギュラーは僕の方だ)

 人体実験の成れの果て。


 パチパチパチ。

 癇に障るリズムで拍手しながら彩矢子が入ってきた。

「戦わずして勝つ、真理よねーさすがだわ、それでいいのよ亜紀人。統べる側のNOAが戦うなんて、必要ないの、解ってるじゃない」

「そうだな、自滅を待つだけでいい。それだけのことだ」

「そう、正解よ。彼の寿命なんて、とっくに過ぎていたの、明日死んでも不思議が無いくらいにね老化は進んでいたのよ、見抜いていたのね、資料から」

「あぁ…アンタがコイツにドーピングを施したんだろ?」

「…彼が望んだのよ…一応、誤解のないように言っておくけど」

「そうだろうな、僕を試した、そういうことだろ」

「試したなんて…そうじゃないわ、そうね、どう対処するか?それを知りたかったのよ」

「それを試すと言うんだよ」

「やだ、気分を悪くしたかしら?」

「べつに…」

「あぁ、コレは片づけさせるから、今日は休みなさい、一応検査も受けるのよ、サクラ!! 亜紀人を医務室へ案内して」

 出入口からサクラが入ってきた。

 後ろには黒いスーツの男が4人、サクラに続く。

「コレを片づけて頂戴」

 彩矢子がコレと呼んだNo23ツゥスリーを一瞥する。

「触るな!!」

 No23ツゥスリーを運び出そうとした男達に僕は叫んだ。

「ソイツに触るな」

「なに?どうしたの亜紀人?」

「ソイツは…僕だ…僕自身なんだ」

 僕はNo23ツゥスリーの死体を抱えて、トレーニングルームを後にした。

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