第57話 屋烏之愛 おくうのあい

「待ってたわ…適当に腰かけて」

 彩矢子は優しく微笑んだ。

 もともと派手な化粧をすることもない彩矢子、下地化粧しかしていない、それでも充分に美しい。

 5年ぶり…でも歳を取ったように思えない。

 観察対象として接してくれていただけかもしれない、それでも、私は嬉しかった。

「リトルマーメイド」「人魚姫」陰口を叩かれていることは知っている。

 陰口とは、本人に聴こえる様に叩くものなのだから。

 彩矢子だけは、そんな自分に優しかった。

 この足を医者とは違う形で触れてくれた。

 優しく、慈しむように撫で…舌を這わせ…それは、とても甘美な時だった。

 そのまま彩矢子に身を任せ、終わらない快楽は全てを忘れさせてくれた。


 夜を待ち、彩矢子を待ち、過ごした日々。

 彩矢子が日本へ帰る前夜には、彩矢子の全てを、口から取りこもうとした。

 なんの意味も為さない、ただ、すがるように求めた。

 その溢れる一滴も溢さない様に…。


 あれから、必死で研究に没頭した。

 彩矢子を忘れる様に、違う…彩矢子に近づける様に…出来るはずだ。

 自分には、その能力がある。


 それは全て、彩矢子のシナリオ。

 研究を早めるための手段、必要なのは結果であり、自分ではない。

 それでも、こうして逢うことができた…それで良かったのに…。


(抱かれたい…)

 意識したわけではないが、No68シクスエイトはベッドに腰掛けた。

 それを見た彩矢子は、いやらしく微笑む。

「キレイよ…まるでアタシみたいに…」

 押し倒す様に、彩矢子が優しくNo68シクスエイトの首に手を回し、唇を重ねる、ベッドに沈み込む身体に彩矢子の温もりを感じる。

 いやがうえに火照る身体。

「逢いたかった…」

 絞り出すような声、彩矢子に抱きつくNo68シクスエイト

「可愛い娘…」

 深く唇を重ねる2人の女性。


 彩矢子の左手がNo68シクスエイトのロングスカートをゆっくりと捲り上げる。

「ん…」

 小さな吐息が漏れる。

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