第58話 海翁好鴎 かいおうこうおう

 彩矢子の指を覚えている…自分の指とは違う、彼女の指の感触。

 絶対に人には見られたくない場所に、彩矢子の指が、手が、入ってくる。

 しばし足を撫でられた後、少し乱暴にロングスカートを脱がされる。

「下着は付けないのよね…アナタ…」

「意地悪言わないで…」

 No68シクスエイトの細い足がベッドの上で露わになる。

「なんで、このままにしておくのかしら?」

「べつに、不自由は無いわ…」

「それが本当の理由じゃないでしょ?」

 彩矢子から顔を背けるNo68シクスエイト

 彼女の足は、ふとももから足首まで左右が繋がっている。

 まるで人魚の尾ひれのような形をしている。

 施設の技術なら切開して、健常者とはいかないまでも、ある程度は自由に動かすことも可能なのだが、No68シクスエイトは、手術を拒んでいた。

 義足も付けず、ただ、あるがままの自分を貫いている。

 理由は簡単である。

 これが無ければ、ただの賢いだけの自分になってしまうから。

 彩矢子が目を掛けてくれるのは、この身体に興味があるから、No68シクスエイトは、幼い時から、そう思い込んでいる。

 自分のスペックではNOAには成れないと自覚している、ゆえに普通の身体になれば、ただの研究員でしかない。

 デザイナーズベイビーとしての失敗作だからこそ、自分の存在には価値があると信じているし、それは、ある意味正しい。


 女性の細い手が入るほどのふとももの隙間から彩矢子が秘部に触れる。

 そこは、彩矢子の指しか入れない場所。

 ずっと昔から…今も…この先も…。


 互いを求めあい、身体を入れ替え愛し合う。

 何も無くていい…ただ彩矢子に必要とされていたいだけ。


 離れたくなくて、ひとつになりたくて、No68シクスエイトの両手は彩矢子の細い身体を強く抱きしめる。

 言葉にはできない、けれど伝えたいから、ただ…ひたすらに抱きしめる。


(可愛い子…)

 息を荒げるNo68シクスエイトを抱きしめ首筋に唇を這わせながら、クスッと嗤う彩矢子。

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