第114話 Ⅹ南南 じゅうなな

「迷子だよね」

 杖を引きずりながら通路をウロウロ歩くナミ。

「あれー、右で右じゃなかったっけか?もうー解んないよ~、大体、北とか西とか何から見てなの?右が西?」

 南側の出口から出て右が最初の曲がり角だったのだが…そもそもナミは南を下と認識している。

 つまり、その時見ていたパソコンから後ろがナミの南だったのだが…そもそもソコから間違えていた。

 途中、杖を棒倒しのようにして、倒れた方向へ向かったりもした。

 もちろんYAMAは見ていた。

 惜しむらくは、モニターにスピーカーが付いていなかったことだ。

 教える術がない。

 そもそもソレが出来るようなら、最初から音声で案内したのだ。

 出来ないから地図を表示したのだが、ソレがいけなかった。

 当のナミは、引き返すことも無く、テクテクと歩いて行く。

「喉渇いた…ちょっと休もう…疲れた」

 歩き慣れないナミ、すぐ疲れる。

 通路は変化も無い殺風景、それほど複雑な構造ではないのだが、とにかく広い。

 方向を間違えると、単純ゆえに目的から離れていくのだ。

『扉を開けて待っているというのに…あの娘は…なぜ我から離れていくのか』


 YAMAも精一杯合図しているのだ。

 ランプを点灯させたり、監視モニターをしきりに動かしてみたりした。

 ナミは尽く無視してきたのだ。

「なんか騒がしいね…落ち着かないよー」

 時折、驚いたり、逃げたりしながら、完全に迷子になったのだ。

「迷ったよね…もう戻れそうにもない…」

 もはやナミにとって杖は邪魔以外の何物でもない。

「いらない感じだった気もするー」

 時折、ここに置いていこうか?と思いもしたが、とりあえず、まだ持っているのだ。

「迷子になったら動くなって言われたよね、でも連れて来られた時点では迷子では無かったのでー動いたら迷子だね…えっ?今、動かないほうがいいの?」


 その頃、亜紀人は扉の後ろで、試案を巡らせていたのである。


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