第113話 充禄 じゅうろく

「なぜ扉が開いたんだ?」

 簡単に開くわけないと思っていたが、まさか考えてるうちに開くとは…罠か?

 反射的に意味は無いと解っていても身体が身を隠すように壁に背中を預けるようにへばりつく。

(モニターされているのに…)

 戦場のクセが抜けない。


 持っていないのに手が銃を握るような動きをする。

 反射行動ってやつは頭より早く反応するものだ。

 そう訓練されたのだから。


 しかしなぜ開いた?

 自信か?過信。

(入って来いということなのか)

 判断に迷う。

 迷えば死…だが、早計もまた死。

(どうする…)


 待つべきなのか。

 一度、この場を離れるか。

『扉の陰で悩んでないで入ったらどうだ、亜紀人…ユキヤのほうがしっくりくるか?』

「何を企んでいる?YAMA」

『なにも…そもそもお前の為に扉を解放したわけではない、我はお前を何と呼べばいい?』

「なんでもいい、名前など、僕には意味が無い」

『複数の呼び名があるのは、我も同じ、我も何でもいいのだがな』

「覚えてないのか?」

『何をだ?』

「人だったころの名前だ」

『名前など無かった…お前と同じかもな、必要なかったのだ奴隷には』

「…兵士もだ…名前はいらない」

『我とヒト、それ以外の区別は無い…いや、そうでもないか…YAMYという者がいた』

「ヤミー?」

『我から造られた人型の雌タイプとでもいうのかな』

「そんな奴までいたのか、まったく何人いたんだ?」

『さぁな…正確には知らない』

「僕には100人の兄妹がいた」

『ほう…』

「そのうち7人だけ成長した…いや1人は人の形すらしていない」

『我に繋がれた、その肉の塊か』

「そのようだ…他の5人は短命で、何らかの障害、疾患を持っていた」

『いた…過去形だな』

「4人は死んだ、今、生きているのは2人」

『No80とNo0…そしてお前No42』

「そうだ…僕だけは何の疾患も障害も持っていない」

『特異点、キリストの完全体か』

「キリストとはなんだ?」


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