第45話 Savage Sacrifice 残忍な犠牲者

 冷たいシャワーを浴びた。

 どうせ風邪などひきはしない。

 身体を冷して冷静になったフリをする。

 顔を洗うと、指の冷たさにナミを思い出させる。

 彼女は体温が低い。

 指先も…身体も冷たい…彼女の中だけは暖かかった。

 とても…とても…優しく…それは懐かしく、僕は抱きしめずにはいられなかった。

(愛おしい…細く、少女のような身体…それが愛おしい)

 バスローブを羽織り、窓から月を眺める。

 日向で生きれなかった僕にとって太陽は遠い存在。

 月の柔らかな光に抱かれる様に眠る。

 昔から静かな夜は月を眺めて眠る…今も…月はいつもそこに在る。


「勝てるのか…No23ツゥスリーに…」

 心で呟いたつもりが、口に出た。

 身体的なスペックでは劣っている、そのうえ体術でも勝てないだろう。

 最初に会った夜、不意打ちと言いたいが、そうでもない。

 一応の警戒はしていた、それでも身体が反応しなかった。

 単体の格闘能力では、僕に勝ち目は薄い。


 なぜ受けたのか?

 本来ならば回避すべきことなのに、回避できるのに…。

 苛立っていた…どんなに頭が良くても、感情を抑えることもできないのだ。

(僕は特別なんかじゃない…むしろ他人より稚拙なんだ…)

 それを見せたかったのかもしれない。

 彩矢子に…。


 2日間、僕は解析結果を比べていた。

 No23ツゥスリーの資料はサクラに揃えてもらい、それと合わせて自分なりの仮説を立てる。

 No23ツゥスリーは、知能指数が既定の数値に満たなかったために、6歳から別のプロジェクトの被験者となった。

 細胞の活性化と老化、つまり寿命と老いの研究。

 結果、彼は、骨を折られては投薬で治し、毒物を飲ませれては中和するという非人道的な扱いを受けることとなる。

 細胞を活性化する実験を繰り返していたために、治癒力が飛躍的に向上する反面、老化が早まったということらしい。

 つまり…ここでも彼は失敗作のレッテルを張られ、15歳のときから裏方の汚れ仕事に回ったというわけだ。




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