第5話 Encounter line 繋がるべき出会い
コンビニで彼女を見かけた。
背が高く、人目を惹く服、声も大きく目立つ。
鼻に掛かった様な声と少し間延びするような話し方。
店員と今日発売のデザートがどうしたこうしたと話している。
コンビニで店員と話し込む客は珍しい。
僕が他人と関わらない様に生きているから、余計にそう思うのかもしれない。
話かけたかったが…どう声を掛けたものか解らない、そもそも自分が風俗嬢と知る者に話しかけられたくないんではないだろうか。
僕は、わざと気づかないようなふりをして、彼女の横に並ぶ。
「ん…ん…ふぅ…ホテルの人だ」
小首を傾げて僕の顔を覗き込む彼女。
大きな目がマジマジと僕を見ている。
「あぁ…こんばんは」
「うん…これからバイト?」
「いや…今日は休みなんだ」
「アタシはこれからだよ」
「そう、頑張ってね…じゃあ」
ドキドキした…何を話せばいいか解らずに、僕は立ち去ろうとした。
「あっ、あのね、今思ったけどね、結構キレイな顔してるね…え~と名前なんだっけ?」
「……名前…」
「うん、アナタの名前」
「あ…ぁ…ユキ…ヤだ」
「ユキヤ…アタシね、ナミだよ」
「あぁ…じゃあねナミさん」
「うん…またねユキヤ」
歩いてアパートに戻る途中、彼女を乗せた車が脇を通り過ぎて、目の前で停まった。
ヒョコッと顔を出したナミ。
「あのね、コレ美味しいのあげる」
「あぁ…ありがとう…」
「じゃあね、遅れちゃうから行くねバイバイ」
僕の手に置かれたのは…カニカマ。
「変な娘だ…」
テレビも無いアパートの2階、8畳一間の古いアパート。
冷凍庫も無いワンドアの冷蔵庫にカニカマを入れた。
窓から夜空を見上げる。
(空も狭い…日本は、でも見えるだけマシか…あの部屋は空すら無かった)
冷蔵庫のカニカマを取り出して、しばらく僕は眺めていた。
「変な娘だ…」
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