第4話 Dirty customer 汚い客
手に残るのは感触だけ。
それが僕の視る夢。
残っているのは…トリガーの感触…ナイフのグリップ…そして他人の身体に触れた感触。
つまりは『死』だけ。
むせ返るような砂漠の空気が恋しいと時々思う。
ホテルは独特の匂いが立ち込めている。
他人が、さっきまで交わっていた部屋は、ドアを開けた瞬間に気持ちの悪い空気がブワッと通路に流れていく。
換気もしてないシャワールームからは蒸気が漏れ、5部屋も掃除すると
砂漠の空気とは違った暑さ…臭い…死臭とは違う不快さがある。
時々思う。
命を創ろうという本能と、命を絶とうとする衝動は同じなのかと。
一瞬の快楽を与える本能…刹那の安堵を得ようとする衝動…。
残るのは…一時の満足だ。
敵がいない、その安心感を得ようと僕は、動く全てを…その全ての行動を止めるためにトリガーを弾いたのだ。
そんな中で、モニターを横切る彼女だけが僕の特別だった。
それは、ほんの数秒、束の間と呼ぶこともできない時。
なぜだろう…彼女の姿を見ると、心が和む。
それは砂漠の月を見上げる時とも…施設の職員の会話とも違う。
思えば…施設には窓も無かった。
白い部屋に監視カメラが2つ24時間、僕を追い続ける。
職員は3人知っている…他の誰とも会ったことは無い。
あの職員も、こんな風にモニターで僕を視ていたのだろうか?
そう考えたら、気分が悪くなった。
トイレで吐き戻す…ロクなものは食べてないから胃液に混じって栄養ドリンクと栄養食品が便器を黄色く染める。
もう一度…彼女と話がしてみたい。
僕は、産まれて初めて他人と話したいと思った。
トイレの小さな窓から明け方の空が見える。
口をすすいで、事務所へ戻る。
モニターの向こうに帰る客が映る。
「醜い…」
僕は嫌悪の目をモニターへ向けた。
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