第74話 日陵月替 にちりょうげったい

(そんなに俺の外見は悪いかね…)

 目を覚ましたNo9ナインが鏡の前で自分の顔を角度を変えて映している。

 母親は日本人、治験に応募してきた女性だった。

 もちろん、非合法だから、まともな生活はしていなかったと思われる。

 妊娠、出産まで200万だったんだそうだ。

 産まれた子供は戸籍に登録されないまま引き取られる、それが条件。

 もちろん治験内容の一切は口外できない…というか、本当に出来ない。

 処分されるから。

 一般参加者は全て処分対象、2度と日常生活には戻れない。

 身よりの無い女性、明日、いなくなっても誰にも気にされない女性。

 No9ナインの母親は、そういう類の女性だった。


 成長するに従い、No9ナインの容姿は崩れていった。

 遺伝的疾患なのかもしれないが、奇形というわけではなく、ただ手足が細く、腹がポコリと突き出して、身長は140センチにも届かなかった。

 その容姿ゆえに肉体的に秀でることはなく、他のナンバーズに比べ、IQも標準レベル、スペックとしては、普通のヒトであった。

 処分されなかったのは、その容姿が興味を引いたからに他ならず、No9ナインは、ごく普通に施設で過ごしていた。

 彼の特異性が発揮されたのは、施設でレクリエーションとして運動会を開いたときだった。

 ナンバーズの身体能力を計る意味合いもあったのだが、まぁ職員合同のレクリエーション、皆、気楽に参加する予定であった。

 No9ナイン以外は、彼は、相手の競技参加名簿を盗み出し、自分の組が勝つためには?と捨てる競技、確実に獲りに行く競技、また参加者の身体能力を把握し、確実に勝つための組み合わせを組んだ。

 競技の度に、点数を試算し、都度名簿を組み換え、チームを勝利に導いた。

 着目すべきは、その性格。

 勝つために、彼自身は一切の競技に参加しなかったという達観した性格。

 その采配は、確実に裏方向きであり、他のナンバーズと大きく異なる才能を持っていた。

 組織の2番手に置くことで、最も、その能力を発揮する参謀タイプ。

 彼の育成方法は、それのみに特化されていくことになる。

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