第43話 Quit Quench 秘めた想い

「エビよりカニが食べたいの?」

「そうじゃないよ、カニもさ…生のカニって感じじゃなくていいの、カニ風味くらいでいいの」

 彼女は、ひとくち食べる度に、魚美味い、肉美味いと感想を述べるのだが、料理そのものに思うことはないようだ。

 素材について良し悪しを言うことはあっても、調理された料理の有無はどうでもいいように感じる。

 食べ方がそうなのだ。

 ソースに絡めてなんて食べない。

 むしろ落として食べる。


 複雑なものを好まないのかもしれない。

 そもそも、コース料理を愉しむという感覚がないのだろう。

 合間合間にお菓子やデザートを食べながら料理を進めていく。

 それなりの店でなくても、怒られそうな食べ方。

 きっと他人と食事することに慣れていない。

(僕と同じだ…)


 一通り食べ終わり、フルーツと何種類かのデザートが残されて後は片づけられた。

「なんかさ~ちょっとずつだけど、いっぱい食べたね~」

 カニカマを鞄から取り出して、タルトと一緒に食べているナミ。

「その食べ合わせでいいの?」

 僕が聞くとナミは事もなげに

「甘いのとしょっぱいのが順番」


 食べ終わるとIQOSを吹かし始める。

「タバコ吸うの?」

「タバコも吸うけど、吸わない人の前ではIQOSなの」

「どう違うの?」

「全然、違うんだよ~」

 喫煙をしない僕には解らないが、ナミにとっては明確な差があるようだ。

「ねぇ歯を見せて~」

「歯?」

「うん」

 僕が口を開いてイーッとするとナミはマジマジと覗き込んで

「やっぱタバコ吸わないとキレイだよね歯も歯茎も…」

 そう言って唇を重ねてくる。

「ナミ…」

「ん…ユキヤ…今日はお客さんだからね…」


 長いキス…僕達は朝まで手を放すことは無かった。


 翌朝、ホテルのフロントにサクラが迎えに来た。

「今度は客じゃなくて、普通に誘って」

 別れぎわにナミはそう言って送迎車に乗って帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る