第33話 Graceful Gaze 優雅に見守る
「ノアか…滅びた世界の先へ進む者を乗せる箱舟」
このプロジェクトに関わるものに与えられる名前。
どこか子供じみた匂いがする。
科学者なんて好奇心で動く子供と変わらないのかもしれない。
なまじ知識と権限があるぶん厄介だ。
「キリストでも造る気か…」
読み終えたレポートを机に少し乱暴に置いた。
「自身を知れか…」
僕は終着点じゃない。
この僕が…あるいは僕の先が神を産み出すためのパーツ。
己の…種の限界を知るための機械だ。
(己を知ったよ…役目もね)
その日は、それ以上何をする気にもなれなかった。
部屋に戻り、スマホで彼女の務める店を調べた。
僕は、サクラに外出許可を頼んだ。
2週間後の金曜日、僕は夕方からココを出る。
ホテルの予約も頼んだ。
意外にも許可はすぐにおりたようだ。
頼んで数時間後にサクラから内線でホテルの場所を聞いた。
外出時には、護衛という名の監視が付くがホテルの外だそうだ。
監視しやすいのだろう、VIPルームを手配したとのことだ。
特別扱いだと言っていたが…目的は別。
「そう…あの子が外出を…構わないわ、逃げないわよ…退屈してるだけよ…えぇ…サクラでもいいけど…3階の連中は必要ないわ…フフフ、デートよ、甥っ子のデートに無粋な真似したくないの、大丈夫よ…サクラを付けて、あとはドライバーだけで充分よ」
彩矢子が内線をカチャッと置いた。
バスローブのまま長い髪を拭きながら、ソファに腰を下ろし、冷えたクリュッグをシャンパングラスに注ぐ。
窓の外にポカリと浮かぶ月をグラスに泳がす様に指先で燻らせ微笑む。
「姉さん、あなたの子供は私がちゃんと育てるわ…安心してね」
それから受話器を持ち上げて
「サクラ…そう…外出は問題ないわ、ただしアナタが付いて行って、デートの邪魔はしないであげてね…お願い」
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