第97話   唵  をん

 3時間、誰も口を開かなかった。

 ただナミだけが

「怖いよ…怖い」

 と小声で繰り返していた。


『The end of the analysis』

 No80ハチマルのノートパソコンに文字が表示され、優しい女性の声で

 解析終了の報告が流れる。

「マザーの声、安らがないか?No42フォウツゥ

「どういう意味だ?」

「このマザー、いやメタトロンのAIは3つ組み込まれている」

 彩矢子の表情が曇る。

「女性としての人格、研究者としての人格、そして母親としての人格…」

「だから女の声なのか?」

「鈍いな、メタトロンの作成者はキミの母親なんだよ」

「…いまさら…どうでもいい」

「本当に鈍いな、いいか彼女は、とあるアニメをモチーフに、このシステムを考えた、だが彼女に足りなかったのは母親としての人格、だから被験者になったのだよデザイナーズベイビーの」

「人格の分離、移植にはオーパーツが使われている、その際に文様の本当の意味を知ったのさ、これは文字ではない、なんらかの配列だと、当時の遺伝子工学はまだ未成熟で、気づいても解析は出来なかった、あくまでオーパーツの機能に頼ってメタトロンは起動していただけ、いわば彼女の3つの人格のアーカイバだったんだ、それをAIに昇華させたのがマザーというわけさ」

「天使から聖母へ昇格なのか?それ」

「さぁね…どっちが偉いかは興味ないけどね、キミにとってのマザーは、間違いなくアレだ」

 モニターを指さすNo80ハチマル

 不気味な塔に視える黒と銀の塊、様々な色の配線が飛び出し、赤や緑に不規則に点灯するコンピューター。


「現代のBABELバベルだな、まるで」

「混乱の塔か?ハハハハ…そうかもな、コレが無ければ始まらなかったわけだしな、僕たちは混乱しているのかもな、キミの母親のせいだ」

「そうだな…」


「ユキヤのお母さん?」

 ナミが呟き、亜紀人の肩ごしにモニターを見る。

「初めまして…ナミです」


『初めまして…』

 優しい女性の声が響く…。


                          第三章 完

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