殺しの調べ

桜雪

第1章 日陰で生きる者

第1話 A lot of MARIA 沢山の聖母

 シータック空港から飛び立った飛行機、乗客63名、CA3名、パイロット2名。

 離陸後15分でハイジャックされた。


 いるんだかいないんだか…解りもしない神の名を掲げた聖戦。

 本当に神がいるなら、こんな人間の暴挙を許すのか?

 これが現実なら、それこそ神がいないという証明ではないのか。


 国籍も肌の色も違う乗客そしてCAが最後にとった行動は…。

 幼子を抱いた東洋人の母親を守る事だった。

 考えられるあらゆる手を尽くした。

 最後は自分たちの身体を壁にして…自爆テロの実行犯であるハイジャック犯も、最後には自らその壁になった。


 もし、あのときに神がいたのであれば…それは彼らの内側に産まれたのだ。

 性別を問わず、死亡するまでの短い間、彼らは聖母であった。

 自らの中に神を宿したのだから。

 乗客は全員死亡…。


 神はいない。

 奇跡など起きない。


 ただ、必然を残して20年の月日は流れた。

「お疲れ様でした…」

「おう、明日も頼むな」

「はい」


 若い男が従業員出入り口から出て行った。

「アイツ、真面目だけど…なんか話しかけにくいですね」

「うん…まぁ、こんなトコでバイトするんだから、訳ありなんだろ」

「履歴書見たけど、普通ですよ」

「あんなもん…アテになるかよ、ホントのこと書いてるかどうかも」

「あっ、でもアイツ…英語ペラペラですよ、この間、外人のデリ嬢と話してるの見たんですよ」

「はぁー、余計に何かありそうだけどな、それにアイツってのよせよ」

「名前なんでしたっけ?」

「ここじゃ本名なんか名乗らないだろ?なんだっけな?ユキだ」

「ユキ…さんか…どうでもいいけど」

「早く、掃除行くぞ、カメラに撮られてるの忘れるな」

「はい…はい…バカらしい、他人のSEXの後始末か…」

「行くぞ!!」

「はい」

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