第20話 Take a future 選べ…
僕は無意識に、この部屋に戻ることを当たり前としていた。
嫌なら、その場で帰れば良かったのだ。
それなのに、僕はこの部屋に戻ってしまった。
自分の能力を理解してくれる人がココにいた。
生き方の矛盾を感じていた僕は、わずかながらもココに未練があるのかもしれない。
それが見透かされたから…苛立った。
戦場では、ソレがたいして役に立たないだけ…それでも先天的な身体能力は高いぶん生き残る確率が他人より高かったのだろう。
薄々、気づいていた、バイトを繰り返して、多少なりとも他人との比較を経て、自分の能力が高いことは自覚している。
その能力を、まったく必要としない場所でしか生きられない不条理にイラついていた。
時々、戦場が懐かしいと思うことがある。
あそこでは、自分は何者でも無い。
ただの兵士でいられるから…名前も必要ない、そして僕の能力が活かせる場所だったから。
ラブホの清掃員に、高い身体能力も、高い知能指数も必要ない。
(ここなら…)
はめ込まれた窓から外を見る。
何処だかわからない山の中、街並みなんて見えない。
意図的に、その方向へ窓を配置して無いのだろう。
(ここならば…)
自分には日陰の社会しか生きる場所がないと諦めていた。
ここでも、日陰なのかもしれない…でも、今よりは人らしい自由が与えられる。
野良犬から飼い犬に変わるだけ…そう思わないでもない、でも…もしかしたら僕にも…人並の…。
僕の心に巣食った感情、それは…その根っこにあるもの…それは彼女のこと。
「ナミ…」
揺れているのは、もとのボロアパートに戻ればナミに逢える…。
ココに残れば、もう逢えないのかもしれない…。
馬鹿げている。
比べるべき問題じゃない。
望んだ世界はどちらでもない…だけど…ココ意外に自分を受け入れてくれる場所なんてあるわけがない。
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