96、報酬とサービス(オリジン・エルフ)
トップランカーとして君臨するムサシとアヤメは、ドラゴン型の魔獣からかなりの経験値を得られたらしくホクホクしていた。彼らはいわゆる「廃人プレイヤー」と呼ばれる人間であるため、今回の緊急イベントにいち早く参加できたことを大層喜んでいた。
途中加わった魔道具技師のコトリも普段できないレベル上げができたと喜んでいたが、ここに来るために使用した魔道具が大破したため作り直すことになったと涙目だ。
「何か手伝えることがあれば言ってください」
「ありがとう。いらない素材があったら売ってくれると嬉しい……」
慰めるミユに、すっかり肩を落としたコトリは弱々しく微笑む。話を聞けば「バイクっぽい乗り物」とのことで、アイリが自分の持っている鉱石などの素材をさっそく渡している。
「では、私はこれで失礼いたします。依頼は完了ということでよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。感謝しますステラさん」
「……オリジン様は、ギルマスと顔見知りですか?」
「え? ええ、そうですよ」
「……なるほど」
微かに頬を緩ませるステラに、思わず見惚れてしまうオリジン一樹。しかし今の会話で何が「なるほど」なのか、彼は一抹の不安を覚える。
「王都までお送りしますよ」
「いえ、トカゲ型の魔獣が大量発生しているとのことだったので、調査をしながら帰ります。報酬は直接渡されるとのことでしたが……」
「ええ、用意しておりますよ」
オリジンの手元がふわりと虹色に光り、いくつかの小さな箱が現れる。
「これは、渡り人がよく売り買いしている箱ですね?」
「ええ、これは開けるまで何が出るか分からないものですが、開けた人間にしか使えない武器や防具が入っています。箱のままなら売買できますが、ハズレの時もありますから高額のやり取りはされていないようですね」
「不思議なものですね……これはどうやって手に入れたのです?」
「私はこう見えて『神』ですからね。ツテがあるのですよ」
「し、失礼いたしました!」
暗に詮索しないよう柔らかく言ったつもりが、すっかりステラは恐縮しているようだ。オリジン一樹は笑顔で気にしないように言っていると、すっかり回復?した火の精霊王が近づいてきた。
やたら熱気を振りまいていて、一気に周囲が暑くなる。
『さっきはすまなかった! エルフの神!』
「火の精霊王。調子はどうです?」
『水のおかげで、すっかり良くなった! あんな魔獣に食われちまうとは、情けないところを見せちまったな!』
「いえ、ご無事でなによりです」
火の精霊王の赤銅色の髪は、彼が動くたびに小さな火花が散っている。そんな彼の後ろから、なんとか落ち着いたらしい水の精霊王が顔を覗かせる。
『ありがとう。これで復活する』
「復活?」
水の精霊王の言葉に一樹は首を傾げるのと同時に、青い光と赤い光が交互に輝いて火山の火口に飛び込んでいく。地鳴りが起こり、小さく悲鳴をあげたミユの肩を押さえてアイリは体勢を低くさせる。
ズシンとくる強い衝撃と地面の揺れに驚くプレイヤーたち。
彼らに降り注ぐのは大量の……「湯」であった。
「これって……」
「……温泉?」
『最近、水が遊びに来ないからご無沙汰だったけどな! この湯に浸かれば疲労回復する、すごい湯なんだぞ!』
ドヤ顔で語る火の精霊王に、アイリは「ご無沙汰って何がご無沙汰なの?」とブツブツ呟いている。
この流れは……。
『エルフの神、そして渡り人たち、ゆっくり休んでほしい』
そう。
水着イベントの開催場所は、海とは限らないのだ。
「おはよう、美優」
「……オハヨ」
ショートボブの黒髪をかきあげて、愛梨はふわふわした足取りで歩く親友に声をかける。しかし彼女の声は小さい上に片言で、目の下には隈ができている。
「もしかして、昨日眠れなかった?」
「……ウン」
えへへと笑う美優は、昨日のことを思い出したのか頬を染めている。
緊急イベントを無事こなせたのはいいが、最後の『オリジン・ボーナス』に大多数のプレイヤーがやられてしまったのだ。
愛梨が通常モードでいられるのは、ただ一樹の家族であるからに他ならない。
「そんなによかったの?」
「よかっ!? ……う、うん、よかった……かな?」
「ふぅん」
「てゆか、なんで愛梨は普通でいられるの? あんな……薄い布と布紐で、横から見たら何も着ていないみたいな、あんな際どい水着……いや、あれは水着なの? けしからんって感想しか出てこない、あのデザインは一体なんなの?」
「落ち着いて美優。あれは水着。水着ってことにしておけば皆が幸せになれるやつ」
「で、でも、水に濡れたら透けてて……」
「美優、落ち着こう。ゆっくり深呼吸していこう。すってー、はいてー」
「すぅー……はぁー……」
学校に行くのも苦労している女子高校生二人が深呼吸しているのと同時刻。
シャワールームでうめき声をあげながら悶える男が一人。
「やばい……ミユちゃん……白の水着だった……やばい……たゆんって……たゆんってしてた……やばい……」
何度もくり返し「ミユちゃんのたゆんやばい」と呟きながら、自分の何かがおさまるまでひたすら水を浴び続ける一樹であった。
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