90、連携の確認をする(オリジン・エルフ)


 ミユとアイリは、火属性の攻撃が弱くなるマントを身につけている。ドラゴン型の魔獣はレベルも高く、それなりの防具を準備する必要があったのだ。アイリの色々際どいビキニアーマーもどきについては、しばし封印である。


 カラリコロリと下駄を鳴らしつつ歩く浴衣姿のオリジンに、前を歩く短剣使いのアヤメから視線が刺さる。

 ミユとアイリからもらった手前、衣装を着替えずにいたのは良くなかったかもしれないと反省した彼は、小さな声で「風よ」と呼びかける。

 集まる小さな緑の光たちにオリジンは笑いかけると、少し考えて命じる。


「私たちの音を消してくれますか? 声以外の音で」


 楽しげに点滅する緑の光たちがオリジンの頬に何度か当たると、彼だけではなく他のメンバーにも寄っていく。

 風の精霊と親和性の高いミユは、精霊たちが髪や頬に触れてくるためくすぐったそうに微笑む。


「うわぁ、これすごい。足音とか全部消えてる」


「鎧の擦れる音もしないな」


 足元を見て驚くアヤメに、ムサシも肩をぐるりと回して音が出ないことを確かめている。


「風の精霊ってこういうことまで出来るの? ミユ」


「プラノさんは、下級精霊に複雑なことは出来ないって言ってたけど……」


「けど?」


「オリジン様は器用なエルフ?だから、精霊魔法の参考にはならないって」


「だよねー」


 アイリは大袈裟な動作でため息を吐いてみせる。一瞬にらむような視線を彼女に向けたオリジン一樹だが、ミユが「すごいですね!」と褒めてきたため、すかさずキラキラとした笑顔で返す。さすが器用なエルフである。


 港町を出て街道から外れた五人は、人通りのない火山へと向かう。

 イベント期間であるためトカゲの魔獣が多く出る場所を避け、火属性の魔獣と戦うためだ。火の精霊を取り込んだらしいドラゴン型魔獣と戦う前に、連携を試しておきたいと大剣使いのムサシは言う。


「双剣の嬢ちゃんとは一緒に戦ったからなんとかなるが、治療師がいる状態で戦ったことはないからな」


「回復役はいないんですか?」


「ポーションは持っているが、使うことはほとんどない。敵の攻撃を受けることが無いからな」


「はぁ……」


 レベルというよりも次元が違う……ミユが考えていると、前を歩くアヤメが振り返る。


「支援系の魔法を使えるメンバーがいるから、それでなんとかなることが多いの。私も少しは回復魔法使えるし、回復役がいないわけではないわよ」


 ムサシの言葉足らずな部分をアヤメが苦笑してフォローするのが、なんとなく熟年夫婦のようだとミユは思うが口に出さない。なんとなく言ってはいけないような気がしたのだ。

 ただただ感心しているミユに、アヤメは不思議そうな顔で問う。


「あなた達は二人だけでしょ? それだけじゃイベントの時に人手が足りないんじゃない?」


「えっと……のんびりプレイするのが目的、なので……」


「アヤメさん、ミユは治療師なんですけど、精霊魔法も使えますから支援も攻撃も可能なんですよ」


「はぁっ!?」


 思わず大きな声を出したアヤメは、慌てて自分の口を手でおさえる。

 さもありなんと頷くアイリに、なぜ驚かれたのは分からないミユは困惑気味だ。


「あの、私が精霊魔法使えるのっておかしいですか?」


「おかしいっていうか、精霊魔法は使えるようになるまで、精霊使いとしてたくさんレベルを上げる必要があるのよ。あなたの今のレベルで精霊魔法まで使えるって計算が合わないわ。いつから治療師なの?」


「いえ、最初から治療師です」


「はぁっ!?」


 再び口をおさえるアヤメに、大剣を背負い直したムサシが呟く。


「そういや俺も、格闘家にしか使えない『掌底』や『歩法』を持っているぞ」


「え? ムサシって格闘家だったの?」


「いや、ずっと大剣使いのままだ。気がついたら覚えていた」


「……そのことを知っているのは?」


「今、ここにいるメンバー」


「……後で他のメンバーに報告」


「おう」


 ため息を吐くアヤメの横で、ムサシはよく分かっていないまま返事をしているようだ。首を傾げているミユを見て、アイリは追加で説明を入れる。


「このゲームは元々持っている資質がステータスに反映したり、私みたいに双剣使いみたいなレアな職業を持つことになったりするのは知られているの。でも各職業の固有スキルは、異なる職業では覚えられないってことになってる」


「マニュアルにあるの?」


「一応、ね」


 ミユはマニュアルを持っていない。彼女の使用しているゲームの機体は新品ではなかったからだ。そのため、彼女はゲームを進めるのが遅く、かなり遠回りしている……かのように見える。

 目的が人探しということもあり、レベル上げやイベントの参加は二の次だったミユだが、なぜかハンターギルドやイベントでポイントを稼げているのが彼女の不思議なところだ。


「渡り人の方々は楽しそうですね」


「エルフの神さまも色々やってみたらいいんじゃない?」


 オリジン一樹の言葉に、ニヤリと笑って返すアイリ。その横で少し期待するような目で見てくるミユ。


「そうはいかないですよ。神とは忙しいものなんです」


 言葉と共に、彼の周囲を青い光が覆っていく。水の下級精霊が集まってきたことに気づいたミユが前を向けば、すでにムサシとアヤメは戦闘態勢に入っている。

 武器を持つ二人の構えを見たアイリは、さすがトップランカーだと感心しながら自身も双剣を抜いて構えた。

 口からゆるく炎を吐き出しながら近づいてくる三匹のオオトカゲ。早くもこちらに炎が放射されるが、事前に発動したオリジンの精霊魔法で防がれている。


「双剣で撹乱、大剣が突撃、短剣で援護。後衛二人は支援」


 低い声で素早く指示したムサシは、街道近くで出た魔獣の数倍は大きいオオトカゲに向かって走り出す。

 その巨体に似合わない素早さにアイリは共闘した時のことを思い出しながら、彼が次にどう動くのかを計算しながら体を回転させるように双剣を振るう。

 オオトカゲが振り回す尻尾の攻撃は、その都度アヤメの短剣で軌道がそらされている。


「むぅ、剣が通らないな」


「このトカゲ、皮膚が異様に硬いわ!」


「ミユ! 支援お願い!」


「力上昇かけます!」


 レベルが上がり範囲魔法を使えるミユが、前衛の三人に支援魔法を送る。大剣を振るうスピードが上がったムサシがニヤリとわらい、二体のオオトカゲにとどめを刺す。残り一体の目ををアヤメがつぶしたところにアイリが一太刀目で胸を裂き、二太刀目で心臓を貫いた。


「良い腕をしている」


「ありがとうございます!」


「可愛い顔してるのに、結構えぐい攻撃するのね……」


 ムサシに褒められ素直に喜ぶアイリは可憐で愛らしく、そんな彼女がするとは思えない攻撃方法にアヤメは若干引いてしまうのだった。

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