124、イベントの裏で訓練する系女子(赤毛のギルドマスター)
ようやく事前に想定していた人数のプレイヤーが前線に集まり、トップランカーのムサシと共に魔獣と戦っていたギルマス一樹はクレナイを呼び寄せる。
クレナイにまたがっていた魔道具技師のコトリは、急な方向転換についていけず悲鳴をあげた。
「おい、すこしは体力つけた方がいいんじゃねぇか?」
「俺もそう思う。こいつ、リアルでも体力ないし」
「うう、善良な一般人なのに、あつかいがひどい……」
すり寄ってくるクレナイをわしわしと撫でてやると、ギルマス一樹はコトリとムサシに問いかける。
「渡り人たちも集まってくれたようだし、俺は一度戻るがそっちはどうする?」
「私はここでログアウトするから大丈夫ですよー」
「俺は交代のメンバーが来るまで、もうひと仕事しておく」
「わかった。……ご尽力を感謝する」
そう言い放つとニヤリと笑い、クレナイの背に乗った赤毛のギルマスは颯爽とこの場を去っていく。
「ありゃ、相当モテるな」
「モテるだろうねぇ」
まったく趣味嗜好が合わない姉弟だが、珍しく意見の合う貴重な瞬間であった。
エルフの国にあるモフモフ村(仮)から、遅ればせながらイベントに参戦しようとするミユとアイリ。
気になっていた土の精霊王の様子を確認しようと足をのばせば、神官長プラノと兵士長ルトが泣きわめく赤子に翻弄されている場面に遭遇する。
「ああ、ミユ様ちょうどよいところに!」
「申し訳ない! この子が! 泣き止まず!」
プラノとルトの切羽詰まった言葉に、大規模イベントに参加する気満々だったミユは思考を即切り替える。
ミユはイベントに参加することよりも、自分が大事にしている人が困っていたら助けたいという気持ちが強かったのだ。
「……アイリ、先に行っててもいいよ?」
「ばーか、イベントはまたあるんだから、今を大事にしようよ」
「ありがとう」
プラノから赤子を受け取ったミユがよしよしとあやせば、あっという間に泣き止む。
疲れた表情のプラノとルトは、がっくりとうなだれる。
「やはりミユ様はすごい……」
「我らにもオリジン様のように持っていれば……」
オリジンが持ち、彼らが持っていないもの。
アイリがじわりと殺気を放ったのに気づいたプラノは、慌てて話題を変える。
「ところでミユ様とアイリ様、その服装はもしや聖王国の王都へ行かれる予定だったのでは?」
「そうです。大規模な魔獣討伐をするという話だったので」
「エルフの国にも情報がきているの?」
「ええ、最近エルフの国にもハンターギルドが置かれましたから、各国の情報が入るようになってきたのです」
アイリの疑問に、プラノは笑顔で答える。
すると、ミユのことをじっと見ていたルトが驚いたように声をあげる。
「ミユ様は精霊獣を得られたのですね! おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます?」
ミユの装備しているローブのフード部分に入っていた緑の丸い羽毛のモエギは、自分の話題になったことを感じ取ったたのかぴょこりと顔?を出す。
「綺麗な若葉色ですか。風の恩恵が深い精霊獣とは、ミユ様にぴったりですね」
「ミユ様は精霊魔法も風と相性が良いですから、この子がいれば魔力も増幅されるでしょう」
「え、そうなんですか?」
赤子を抱いたまま首をかしげるミユの横で、アイリは真剣な表情でルトに問う。
「ねぇ、エルフさんたちは精霊獣に詳しいの?」
「もちろんです。我らは精霊たちの恩恵を受けて生活をしていますからね。ここにも精霊獣はいるのですが、渡り人の方たちに警戒して姿を隠しているんですよ」
「え? シラユキちゃんは?」
「この神殿が存在する理由であるオリジン様が望まれれば、その通りになりますから」
恍惚とした笑みで答えるプラノを少し怖いと思いながら、ミユはなるほどと納得したところで再び首をかしげる。
「あの、うちのモエギが出てきちゃいましたけど……」
「渡り人が精霊獣を連れてきたのはミユ様が初めてですよ。さすがオリジン様の伴……縁深き方ですね」
このショタ神官ミユのこと伴侶って言おうとしたなと、アイリは胡乱な目でプラノを見ている。そこにルトが助け舟を出した。
「ミユ様、もしよければ精霊獣のいる兵士たちと、連携の戦いかたを学んでいきませんか?」
「連携、ですか?」
「精霊獣がいれば、魔力も高まり魔力操作も楽になります。ですがそれば精霊獣との連携があればこそです。彼らの能力を最大限に発揮させる訓練をしたらどうかと思いまして」
「でも……私たちは王都に」
「ミーユ! イベントは逃げないよ!」
ミユの言葉をさえぎるアイリは、満面の笑みでいる。
「それに、せっかくだから火の精霊王に訓練してもらえたらなぁって思っちゃったり」
「……精霊王様が承諾すれば、でよろしいですか?」
「ありがとプラノきゅん!」
「きゅん?」
自分の呼ばれかたに不穏なものを感じていたプラノだが、ミユの精霊獣が土の精霊王に短い足でちょっかい出している様子に口元を緩める。キャッキャと喜ぶ赤子の声で、精霊王が彼女の精霊獣を気に入っていると分かった。
ミユのまとう空気は不思議と癒される。きっとオリジンも彼女のそういう部分に惹かれているに違いない。
なぜか「先」に進もうとしないのが不思議だが、腕輪を送った仲ならば二人が結ばれる日も近いだろう。
「では始めましょうか。私は庭園にいる火の精霊王様にお伺いをたててきます」
「え? 今から?」
「火の精霊王様は、一度引き受けたことは必ず遂行される方です。武に関する全てに長けてらっしゃいますから、アイリ様にもご満足いただけるかと」
「あの、さっくり優しくでいいんだけど……」
「うちの兵士たちが毎日泣きながら意識を失ってましたけど、アイリ様なら……たぶん大丈夫かと」
「たぶん大丈夫とか嫌だよーっ!!」
アイリの悲痛な叫びは、火の精霊王の「やる気」に文字通り「火をつけた」ようだと記しておく。
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