123、大剣に宿るは風の力(赤毛のギルドマスター)
命知らずのプレイヤーとはいえ、魔獣の多さに押されている。むしろ死に戻っている。
体力(HP)の数値が0になると「死に戻り」となり、ログインした場所に戻されてしまうのだ。
幸いにも王都内でログインした者が多く、少し時間はかかるが比較的早く前線に戻れる。それでもイベントが予定時間よりも早く始まってしまったために、前線の人数はかなり不足していた。
「ムサシさん! 悪い!」
「死に戻るならアイテム補充してこい!」
「了解!」
大剣を振るうムサシの後ろにいた魔法使いのプレイヤーは、攻撃をかわし損ねて大きなダメージを受けてしまう。死に戻ってしまうならと、魔法使いは広範囲の攻撃魔法を唱えた後、光のエフェクトとなってこの場から消えてしまった。
「ちっと休憩できるか。ありがたい」
魔法使いの援護がなくなったのは痛いが、炎の広範囲魔法は数分の効果が続く。向かってくる魔獣たちの足止めにもなっているため、しばらくは戦わず回復に集中できる。
「くそっ……貢献度が高くても、このままじゃ王都に魔獣が入っちまう」
以前、エルフの国でのイベントで「エルフの民に犠牲がなかったから追加報酬を用意した」とNPCが言っていたのをムサシは覚えている。
トップランカーである彼は気づいていた。
この世界を守ることとは、この世界の住人を守ることだと。それにより、渡り人(プレイヤー)は多くの恩恵を得ることができるということに。
「この前にあった突発的な依頼も、報酬が半端なかった……」
自分の手に持つ大剣を見れば、ふわりを風をまとっているのが分かる。報酬で出た武器は、風の属性が付与されており、攻撃力と素早さが大幅にアップされたものだった。
「属性付きの大剣は、ほとんどないんだよな……」
レアなものをもらったと思いながらムサシは回復薬を取り出していると、魔法使いの放った炎の範囲魔法の効果が途切れてしまう。
飛び出してきた猪型の魔獣たちに向かって、条件反射で大剣を振るうムサシだが、さらに数体の魔獣が追い打ちをかけてくる。
「くそっ……油断してたか」
ゲームとはいえ、剣を振るうその腕には常に負荷がかかる。リアルでは人一倍体力があるムサシでも、長時間戦えるかといえば「否」であろう。
その時。
目の前に赤い何かが横切り、受けるはずだったダメージが無効になっている状態にムサシは驚く。
波打つ赤い髪をクシャリとかき上げ、片方の目を眼帯で覆われたその顔は無精髭があっても整っていることが分かる。
肩にかかったハンターギルド職員の制服である深緑色のジャケットをはためかせ、銀色の銃のような武器を魔獣に向けた彼は無言のまま数発撃つ。
動きは鈍くなったものの、ギリギリと音を立てて向かってくる甲虫型の魔獣らに向けて男は舌打ちする。銀色の銃のような武器をひと振りすれば、どういう仕組みか剣の形に変化した。
体を回転させ振るう剣から漏れ出でるのは、緑がかった銀色の光。その光線が走るたびに、巨大な虫たちはあっさりと切り刻まれていく。
「あの硬い魔獣をあっさり斬るとか……しかもその赤い髪、ハンターギルドのマスターか?」
「そうだ。配る予定だった魔道具を人間ごと持ってきたから、あっちで受け取ってこい」
「人間ごと?」
ギルマスが親指でさす方向に目を向けたムサシは、赤い狼のような生き物の側でへばっている姉のコトリを見つけた。赤い狼は周囲にいる魔獣を威嚇し、近づけないように彼女を守っているようだ。
弟を姿に気づいたコトリは、へらりと笑ってのんきに手を振ってくる。
緊張感のかけらもない姉の様子に、緊張が続いていたムサシは思わず脱力してしまう。
「こんな前線まで来て、何やってんだあの人は」
「ここまで来るのに時間がかかりそうだし、緊急事態だったから俺が勝手に連れてきた。装備すれば手持ちの武器に属性効果が付く魔道具を彼女に作ってもらったんだ」
ギルマス一樹は手首にある緑色のブレスレットを見せ、武器を振るえば風がぶわりと起こった。
それを見たムサシは「なるほど」と言って無造作に大剣を振るうと、近づいてきていた甲虫たちが起こった風で飛ばされていく。
「それなら俺には不要だな」
「風属性が付いている大剣か。なかなかいいモノを持ってるな」
お互いニヤリと笑いあうと武器を構え、そのまま相手に向かって攻撃をする……かと思いきや、魔獣を倒した時に出る光のエフェクトが周囲に舞い散った。
「NPC……ギルマスが前線に出ていいのか?」
「さすがに渡り人だけに頼るのは、元ハンターとして思うところがあるから、なぁっ!」
「そうか、よっ!」
大柄なムサシが軽々と大剣を振り回せば、まるで豹のようなしなやかさで剣を突き出すギルマス一樹。
タイプの違う二人の戦いっぷりに、徐々に集まるプレイヤーたちは目を奪われていた。
「はいはぁーい、魔道具持ってない人は、これをどうぞぉー」
コトリは歩き回るクレナイの背に寝そべったまま、新規参入のプレイヤーたちに魔道具の腕輪を配っている。
甲虫の硬さに手詰まりだった者たちは受け取った魔道具を装備し、次々と魔獣を倒していく。
王都で行われたイベントで集めた素材で、今回必要としていた魔道具が作られたことに一樹は違和感をおぼえていた。
ゲームによくあるイベントの流れとしては、普通のことなのかもしれない。
しかし、この世界『エターナル・ワールド』で運営は、常に「リアルな世界観」を大事にしていたはずだ。
「……考えすぎか」
今は魔獣の討伐に集中だと、一樹は自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
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