61、黒の情報(赤毛のギルドマスター)



「さて、話を聞こうか」


 ギルマスモードの一樹は、執務室にある机に寄りかかると、ミユとアイリにソファに座るよう促す。後から入ってきたステラはいつ用意していたのか温かい紅茶と菓子をテーブルに用意している。


「あの、なぜ私たちがギルドに報告することがあるって分かったんですか?」


 戸惑いながらも、しっかりとギルマスの目を見て話すミユ。彼女の警戒している様子にギルマス一樹はニヤリと笑うと、肩に乗せている白いモフモフを指差す。


「コイツ。見てきたのを俺に教えてくれてるんだ」


「へ!? で、でも、その子はオリジン様の……」


「まぁ、俺くらいの男になると、エルフの国にツテくらいはあるってもんだ」


「そういえば、ミユがエルフの国で要人扱いされてるのも、ここの人達は知ってるって言ってたような」


 アイリの言葉に、ギルマス一樹は頷く。

 もちろん、この国の王子(中身は一樹の父)との修行で得たスキルで一樹の気配や匂いは消している。アイリはギルマスをNPCだと思ってはいるが、オリジンが兄だと思っているため少々混乱気味だ。


「俺はハンターの現役時代、精霊使いとしてやっていたからな。精霊獣も使役してるし、こいつらの意思みたいなもんを読み取ることができるんだよ」


「すごいです! 私はまだそこまでじゃなくて……声とか聞こえるまでいかないです」


「声だけじゃない。こいつらが見てきたものを共有もできるようになる。風の精霊に遠くを見てきてもらうとか、訓練次第で出来るようになるはずだ」


「ええと、つまりおに……オリジン様の精霊獣ともやり取りできるくらい、ギルマスさんは強い精霊使いだということでいいですか?」


「そうだな。敬ってくれてもいいぞ」


「何を言ってるんですか。若い女の子がいるからって、はしゃいでる場合じゃないでしょう。今は報告を聞くべきかと」


 キンと冷たい空気を感じたミユとアイリは口を閉じ、ギルマスは「やれやれ」と赤毛の頭をワシワシと掻く。


「あー、すまん。うちの補佐は可愛いけど気が強くてな」


「可愛いは余計ですっ」


 少し強い口調で言ったステラだが、その頬はわずかに赤く染まっていた。ギルマス一樹はツンとした彼女の様子に苦笑しながら続ける。


「俺が分かったのは、黒いやつが襲ってきたってことだけだ。戦った感触はどうだった?」


「私は風の精霊魔法で攻撃したんですけど、切り刻んでも復活してました。アイリの剣も同じです」


「斬れるけど、またすぐに復活してたね」


「復活?」


「最初に魔法と剣で倒した時は、残骸が土に『染み込んだ』感じでした。黒いインクみたいになって……」


「シラユキちゃんが使った白い魔法みたいなのと一緒にやっつけたときは、塵みたいになって消えたんだよね。だから土に染み込んだ時のは倒せてなかったかもって」


「……なるほど」


 以前、エルフの国と聖王国を繋ぐ移動の魔法陣が壊された時、黒いマントの人物も土の中に「逃げた」ような感じだったことを一樹は思い出す。横に控えているステラも同じようなことを考えたようだ。


「ギルマス、その者の共通点は『黒色』ということですよね」


「ああ、そうだな」


 そして一樹は気づいていた。

 前回の魔法陣を破壊された時、そして今回の襲撃にもミユとアイリが必ず関わっていることに。そして、プレイヤーにミユが襲われた時も一樹は見ていた。奴らの黒い服が溶けて消えていくのを……。


(土に落ちたようには見えなかった。塵のようになっていたのかも分からない。あの時もっとしっかりと見ておけば良かった……男の裸なんて見たくないけど)


「魔法陣を壊した犯人の一味である恐れがありますね。ギルド内にも通達を出しておきましょう、他にも目撃者がいるかもしれません」


「ステラさん、よろしくお願いします。アイリちゃん、こっちの世界のことみたいだね」


「ちょっと安心だね。もしかしたらレアな魔獣だったのかな?」


 ホッとしたのか、ミユとアイリの表情は柔らかい。そんな美少女二人に癒されながら、ギルマス一樹は肩にいるシラユキを片手で軽く持ち上げる。


「キュン!」


「シラユキちゃん! ちょっと! 乱暴にしないでよ!」


「んー? 喜んでるぞ?」


 思わず声を荒げるアイリに、赤毛のギルマスは呑気に返す。彼の言う通りシラユキは「キュキュン!」と楽しそう?にも見える。


「よくやったシラユキ、ご主人によろしくな」


「キューン!」


 ひと声鳴くとシラユキの姿は消え、ミユとアイリとステラは恨めしげな表情で一樹を見た。


「おい、あの白いのは神の眷属だからな? そんじょそこらの精霊獣とは格が違うんだからな?」


 それでもなお、じっとりとした目で見てくる女子三人の視線に負けたギルマスは渋々クレナイを呼び出すことにした。彼女たちにモフモフを堪能させ、なんとか一樹は事なきを得たのである。

 ちなみに、クレナイは遊んでもらえて楽しそうだった。


 ミユとアイリが執務室から退出すると、ステラは報告を始める。


「ギルマスの不在中、女性のお客様が来られました。酒場の従業員です」


「来たか。それで?」


「最近のリストに『クロキモノ』という名前が」


「クロ……ねぇ」


「各ギルドに無い名前とのことでした」


「分かった。悪いがこっちで動くとすぐに伝えてくれ」


「了解しました」


 ギルマスの言葉を受け、一礼したステラは静かに執務室から出て行く。そして、旅の薬師が少し前に聞いた言葉を思い出していた。


『最近、錬金術とか魔道具作るような生産系のプレイヤーをスカウトする集団がいてね、そこでレアな素材を使わせてもらえるそうなの。私は時間を拘束されるのが無理だから行かなかったけど……』


『レアな素材を? 一体どんな人達が?』


『黒づくめの格好でね。たぶん、男の人だと思うけど……』


 キルドに戻る前、薬師の一樹がコトリと別れる間際にした会話だ。

 彼女の言ったその集団の名も『クロキモノ』であった。


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