53、報告に困る一樹(赤毛のギルドマスター)
聖王国、王都のハンターギルドの見学を終えたプラノは、ギルマス一樹と補佐であるステラと共に見送ることになった。
王都から少し離れた場所にある林を抜けていくと、綺麗に修復されたエルフの国へ移動する魔法陣が見えてくる。
「プラノ様は、お一人で来られたのですか?」
「ええ、こう見えて私には精霊魔法がありますから。それに国の守りである貴重な神殿のエルフ兵を連れ出すことは、できれば避けたかったのです。反対されましたけどね」
「それはそうでしょう。プラノ様は何というか……まだお若く見えますから」
「細身なのはエルフの特長ですからね。とはいえ、私もオリジン様のように美しい体になりたいものです」
傍目から見ると美少女と美女である二人は、穏やかに会話をしている。その中の「オリジン」という言葉に、思わず一樹は噴き出しそうになるが、なんとか抑えて二人の後ろを歩いて行く。
先頭は赤き精霊獣のクレナイだ。周囲を警戒しながらも、時折ギルマス一樹を振り返る様が健気である。
「神殿にいらっしゃるという、エルフの神と呼ばれる方ですね。オリジン様はエルフっぽくないのですか?」
「いえ、そういうわけではないのです。オリジン様の名の由来は『起源、発端、源』と古い書物にあります。つまり、始まりのエルフであるオリジン様こそ、エルフ達の憧れなのですよ」
「そうだったんですね。そんな素晴らしい方に、私もお会いしてみたいです」
そうだったのかと、当の本人である一樹も驚いている。まさかそういう事になっているとは、後づけの設定にしてはしっくりハマっているなと、変なところで一樹は感心した。
プラノはステラの言葉を受けて笑顔になる。自分の崇拝する神、オリジンを「素晴らしい」と言った彼女に取っておきのお茶を振る舞おうと、プラノは心に決める。
「ぜひとも、神殿にいらしてください。ギルドの事もありますし」
「は、はい。ありがとうございます」
美少年の全開の笑顔に、ステラはクラクラしながらも職務を遂行する。そう、今はプラノを送り届けている最中だ。気をぬくわけにはいかないと、平常心を取り戻そうと必死になるステラの後ろから、ひょいと赤毛が前に出てきた。
「ギルドマスター殿?」
「ギルマスでいい。ちょっと先に魔法陣を調べさせてくれ」
「分かりました。ギルマス殿」
たどり着いた場所は石の舞台のようになっており、淡い光を帯びた幾何学模様が地面に描かれている。その周りをぐるっと歩くギルマスと精霊獣のクレナイは、特に異常は見られない。
「よし、大丈夫だろう。プラノ殿は魔法陣の中へ」
「はい」
ステラから離れた美少年エルフは、微笑みながらギルマス一樹の前を通り過ぎる。その微笑みに一樹は思わず目が吸い寄せられる。
見慣れたその笑みは、プラノがいつも見せてくれるものだ。
「お早いお帰りを、お待ちしています」
そう言って移動の魔法陣を発動させたプラノは、光のエフェクトと共に消える。彼が無事エルフの国へ戻ったことも、一樹はログを見て確認した。
「気配は消したんだけどなぁ」
「ギルマス、どうしました?」
「いや、何でもねぇよ。ほら戻るぞ」
なぜプラノに知られてしまったのか大体想像はついている。それよりも、バレてしまったことを上司の相良にどう報告すれば穏便に済むのか、内心頭を抱える一樹だった。
「ええ!? プラノさん、帰っちゃったんですか!?」
「そんなに驚かなくても……ほら、彼の方は神官長ですから、神殿を長く空けられないのだと思いますよ」
「もっと色々な場所を案内したかったのになぁ」
驚くミユと残念そうなアイリという美少女二人をステラは宥める。確かにこの二人は短い時間ではあったがプラノを護衛していた。別れの言葉もなかったのは、少し可哀想だったかもしれないとステラは考えたところに、彼女の上司であるギルマスが来る。
「ステラ……ああ、ちょうど良かった。お前たちにプラノ殿から手紙と小荷物を預かっているぞ」
「わぁ、これってエルフの国の焼き菓子だよ」
「やった! これもう一回食べてみたかったんだよね!」
アイリは以前エルフの国で行われたガーデンパーティーで、一度だけ食べたお菓子にご執心だったらしい。それを把握していたプラノ、さすが出来る美少年エルフである。
「あ、そうだ。私も教えてもらって、神殿で出してたスコーンを作れるようになったよ」
「そうなの? そういうのって料理スキルがないと作れないんじゃない?」
「何度かやって、スキルが出てきたよ」
「へぇ、すごいね。料理スキルって持ってるひと少ないらしいし」
「あ、違うの。料理スキルじゃないの」
ミユの言葉に、アイリだけではなくステラと一樹も思わず注目する。そんな彼らに気づくことなく、自分のステータスをウィンドウで確認するミユ。
「えーと、調合、複製っていうスキルだよ」
「はぁ!?」
思わず声をあげるアイリ。側で聞いていたステラも持っていた書類を落とし、一樹は慌てて目の端に出したウィンドウで確認する。
(調合と複製、このスキルは……錬金術師、薬師……このあたりの職業じゃないと習得できないはずだ)
ギルマス一樹はステラに目で合図し、この場の会話を誰も聞いてないことをチェックさせる。そして外部に漏らさぬよう指示を出すと、彼は執務室へと向かう。
(相良さんへの報告が、どんどん増えていくな……)
一樹は足元にいるクレナイにミユとアイリの護衛を頼むと、やれやれと疲れた顔でログアウトした。
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