88、臨時パーティ結成(オリジン・エルフ)


 オリジン一樹がアイリとミユの視線に困惑していると、右手の指先に冷たい水がかかったのを感じる。


「あれ? オリジン様、青い光が集まってますよ?」


 一樹が手元を見れば、冷たく感じたのは水の下級精霊が集まったためらしい。何かを訴えるように点滅するその青い光に、彼は緊急性を感じ呼び出すことにする。


「水の精霊王を呼びます。今、大丈夫ですか?」


「え? はい、大丈夫ですけど……」


「何かあったの?」


 下級精霊が見える者は少ないが、精霊王ほどの力があれば精霊と親和性が低い人間でも姿を見ることができる。人目のあるギルド内で呼び出すのもどうかと思ったが、どうせなら今いるプレイヤーを巻き込むことにしようとそのまま言葉を紡ぐ。


「水の精霊王、どうしましたか?」


『ごめん、エルフの神。火の存在が小さくなってきている。急いでほしい』


 よほど慌てているのか、水を撒き散らしながら現れた水の精霊王に周囲はどよめく。長く青い髪に、青い薄衣をまとった美人が突然現れたのだ。

 ミユとアイリは水がかかって驚いたものの、黙って彼らの話を聞くことにする。


「火の精霊王の力が弱まっているということですか? 火山にいる魔獣の影響……ということになりますか」


『僕は近づけないから、なんとかしてあげてほしい』


「もちろんですよ。この世界を維持するために精霊王たちはいるのですから。火の精霊王を助けるために火山の魔獣を討伐しないといけませんね」


『あと三日もつかどうか……』


 悲しげに俯く美人に、周りのプレイヤーたちも何があったんだと一樹たちの周りに集まってきた。それを確認しながら、オリジンは心持ち大きめの声でミユとアイリに話をする。


「ミユさん、アイリさん、火の精霊王が魔獣によって消えてしまうかもしれません。助けてもらえますか?」


「はい! もちろんです!」


「任せといて!」


 快諾してくれる二人の美少女に、オリジン一樹は嬉しそうに微笑む。それを真正面から受けて顔を赤らめるミユとアイリ、そしてたまたま後ろにいた他のプレイヤー達。


 さてどうするかと、一樹は周りに集まったプレイヤー達を見る。すると強い何かを感じ、その方向に目を向けた彼は己の幸運に微笑みを浮かべる。

 オリジンに向かって歩いてくる彼らは、このゲームでのトップランカーとして有名な『流星(りゅうせい)』のメンバーだ。全員が迷彩柄の装備をしていて、ギルド内にいるプレイヤー達の中では少し浮いて見える。

 しかし、日々最前線で戦う彼らにとってこの装備が最適であるだけで、別にこだわりがあるわけではないという。


 『流星』は以前、エルフの国で起きた『強き魔獣』討伐イベントで一位をとったパーティである。オリジンとして賞品を手渡したのもあり、一樹は彼らの顔を知っていた。

 大剣を背負ったガタイのいい男性が、驚いたようにオリジンを見る。


「イベント詳細にあるシルエットでまさかと思ったが、本当に国を出てくるとは思わなかった」


「ここに用があったのですよ」


「……火山に魔獣がいるって話だが、あと三日しかないと、そこの青いのが言ってたようだが?」


 その瞬間、大剣の男の頭がスパコーンとハリセンのようなもので叩かれる。日本でいう『忍者』のような、少し露出の多い紫色の装束を着ている女性プレイヤーが前に出てきた。彼女は肩にかかっている迷彩柄のマントにハリセンを隠しながら、申し訳なさそうに謝る。


「うちのバカが無礼ですみません。そこの青い方は水の精霊王様ですよね」


「分かりますか?」


「多少は。強い精霊の光を感じたので、もしかしたらと思いまして……」


「あなたには精霊使いの才能がありそうです。水の精霊王、彼らはどうですか?」


『僕の声が聞こえるみたいだね。ある程度の力がないと僕らの声までは聞こえないから』


「と、いうことは……」


 一樹は周りを見るが、大剣の男と紫の女忍者以外は精霊王の声が聞こえないようだ。ミユとアイリは下級精霊を感知することもできるため、もちろん精霊王の声も聞こえている。

 紫の女忍者が口を開く。


「オリジン様、今すぐでしたら私とこのバカが動けます。もし良ければ協力させてください」


「こちらがお願いしたいくらいですよ。『強き魔獣』の時も助けてもらったのに、また助けていただけるのですか?」


「プレイヤー……渡り人は、そのためにこの世界にいるのです。どうぞ使ってやってください」


 そう言って微笑む女忍者に、オリジン一樹は丁寧な人だと感心する。多くのプレイヤーはNPCに対して丁寧に対応しないことが多いからだ。

 大剣の男が粗野でも嫌な感情は湧かなかった。たぶん彼はリアルでもこのような感じなのだろう。良い人間のようだし、乱暴な物言いでも好感が持てる存在ではある。

 ちなみにその彼は今、気絶状態になっている。紫の女忍者のハリセンは、もしかしたら魔道具なのだろうか。とある女性プレイヤーが一樹の脳裏をよぎる。


「あの……」


「あら? あなた『強き魔獣』イベントで、討伐戦で一緒に前線で戦ったわよね?」


「はい! 剣の使い方のアドバイスとか、あの時はありがとうございました!」


 珍しくアイリが丁寧な言葉を使っている。自分とは違う態度に微妙な気持ちになる一樹だが、ミユも嬉しそうにしているからこの場は良しとする。火山の魔獣はなんとかなりそうだと、彼は小さく息を吐いた。


 幸いにも現在、リアルでは金曜の夕方だ。さっそく火山へ向かう準備をしようとなったところで、オリジン一樹はさり気なく結界を張った。

 驚いたように一樹を見る女忍者に、笑顔で頷いてみせる。


「他の渡り人に話の内容を聞かれないようにするためですよ。あまり多人数にしたくないのです」


「なるほど、これなら安心して話をできますね」


 こうして急きょ結成された『火山のドラゴン型魔獣討伐』のパーティは、準備に入るのだった。


 ちなみに気絶していた大剣の男は、万能なハリセンで叩かれ気絶から回復していた。

 ハリセン、すごい。



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