84、トカゲの魔獣との戦闘(オリジン・エルフ)
海に近づくにつれ、魔獣の強さが上がっていく。
舞うように双剣を振るいトカゲのような魔獣に満遍なくダメージを与えていくアイリに、素早さが上がる魔法をかけたミユは風の精霊の援護を願う。
風が強く吹いて魔獣たちの動きが止まれば、アイリが素早くとどめを刺していく。
海へと向かう美少女二人に同行させてもらうことになったオリジン一樹は、後衛にいるミユの側で戦闘に参加せずに見ているだけの状態だ。
アイリが手際よく魔獣を仕留めたところで、一樹はミユに話しかける。
「見事なものですね。女性二人旅で難儀していると思いましたが……」
「オリジン様がいるおかげか、風の精霊たちがたくさん動いてくれてます。助かります」
「私が戦闘に参加すると、お二人の成長を妨げてしまいますからね。手助けは最小限にします」
「オリジン様は、私たちがピンチだったら助けてくれるのよね?」
「もちろんです」
トカゲが落とした牙と皮を拾いながら、アイリは中身が自分の兄であろうオリジンを胡乱げに見る。妹の様子に苦笑するオリジン一樹は、彼女に付いている砂の汚れを水と風の精霊で綺麗にしてやった。
「ほら、こうやって」
「精霊魔法って色々できるんですね! すごいです!」
「こちらの意思をちゃんと伝えることができれば、わりと何でもできるんですよ」
「風と水なら私にもできそうです。治療師としても使えそうですね」
笑顔のミユをオリジン一樹は微笑ましげに見ている。そこに双剣を腰にある鞘におさめたアイリが、微妙な表情で二人のいる場所に戻ってきた。
「ねぇ、私、もしかして邪魔? ミユはオリジン様と二人っきりがいいんじゃないの?」
「な、なななに言ってんのアイリったら!」
「アイリさん、それはまた別の機会をちゃんと作りますので大丈夫ですよ」
「ならいっか」
「うえええええ!?」
「ミユさん真っ赤ですね」
「このゲームは感情の起伏までも綺麗に再現するのねぇ」
一人慌てふためくミユに、オリジンとアイリはのほほんと話をしている。するとそこに、再びトカゲの魔獣が数匹現れた。
「エンカウント率、高くない!?」
「最初に風で足止めするね!」
一瞬の内に少女二人は戦闘モードとなる。
保護者のように彼女たちを見守るオリジン一樹は、邪魔にならない位置へと移動しているとさらに数匹トカゲの魔獣が現れた。すぐさま一樹に襲いかかる魔獣たちを視界に捉えたミユは逃げるよう声をかける。
「オリジン様!!」
「ここは私が引き受けます」
そうオリジン一樹が言い終わらない内に彼の足元から水が湧き上がり、一気にそれが冷えて氷となる。
氷の上に浮かぶのは青い薄衣を身にまとった青髪の若者だ。彼が腕をひと振りすれば、氷が槍となり魔獣に向かって放たれる。
氷の槍は当たればそこから凍ってしまうようで、襲いかかろうとした魔獣全てが凍ったオブジェのようになってしまった。そこに離れた先にいた魔獣を仕留めたアイリが飛び込み、オブジェを破壊してとどめを刺していく。
『トカゲは寒さに弱いみたいだから、ね』
「ありがとう。水の精霊王」
『果実の入ったお菓子がいいな』
「用意させましょう」
倒したトカゲの皮を拾うアイリとミユをオリジンが手伝おうとすれば、淡い緑の光と共に風が吹いてそれらを集めてしまう。エルフの神だからって何もさせてもらえないのかと一樹は不満に思うが、これらの現象は「神だからこそ」なのかもしれないと考える。
ここまで魔獣に遭遇するなら、旅の薬師でレベル上げすべきだったかもしれないと一樹は少し後悔した。
「はい、ミユさん魔獣の皮ですよ。どうぞ」
「ありがとうございます。それにしても、こんなにたくさんトカゲが出てくるなんて知らなかったです。皮ばっかり落ちるし……」
「これだけトカゲ魔獣が出てくるってことは、イベントに関係あるのかも?」
「アイリ! イベントの詳細のところにトカゲの皮と限定デザインの水着が交換ってなってる!」
「マジで? それじゃもっと集めないと!」
盛り上がるミユとアイリに、首を傾げるエルフの神。そういえば確認していなかったと、イベント画面を見た一樹は愕然とする。
少女二人は最初の「女性向け水着」のところだけ見ていたのだろう。スクロールしていくと「男性向け水着」の説明があり、さらにその下には「人気NPCのお色気水着姿を拝めるチャンス?」と記載されている。
条件は、レアな金色のトカゲ魔獣の皮が必要とのことだ。ただの水着ではなく「お色気」と付いているところが恐ろしい。上司相良の陰謀と欲望がひしひしと感じられる。
「な……」
言葉もなく画面を見る一樹は、どうかレアな魔獣が現れないよう強く祈っていた。
「わぁ、なにあのトカゲ! キラキラしてる!」
「すごく素早いから、風に助けてもらおう。オリジン様がいるから精霊さんたちが張り切ってて助かるね」
ミユの精霊魔法で動きが鈍ったレアな金色のトカゲ魔獣を、双剣で危なげなく仕留めたアイリはドロップされた金色の皮を手に取り嬉しそうだ。
一樹は思い出していた。精霊の動きが良かったのはオリジンである自分がいるからだろうが、元々ミユは幸運の値が高い。
そう、彼女は「レアなもの」をゲットしやすいのだ。
「うん。まぁ、この二人で良かったということにしよう」
「なんですか? オリジン様?」
「何でもないですよ。ミユさん」
うふふあははと笑い合うミユとオリジンを、「また始まった」と生温かく見守るアイリだった。
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