47、上司に相談、久々に会う二人


 ログアウトした一樹は、ピンクの液体から体を起こすとそのまま頭を抱える。


「何やってんだよ……あの筋肉バカ親父は……」


 実の父を筋肉バカ呼ばわりしている一樹だが、そういう自分も結構な筋肉持ちであるのを棚に上げた発言をしている。月一回は棚卸しをすることを彼に強くおススメしたい。

 それはともかく、一樹は軽く体を拭いて服を着ると重い体を引きずるようにして上司のいる作業室へ向かった。


「相楽さん、いますかー」


「はいはーい、いるわよ。どうしたの? 久しぶりじゃなーい」


「どうしたのって、いつも相良さん不在だったじゃないですか」


「次のイベントの準備で忙しかったのよ。別のチームがメインでやるとはいえ、うちもイベントの概要を把握しておかなきゃだめだからね」


「しばらくエルフの国でのイベントはなさそうですね」


「まぁ、君の『オリジン・エルフ』は結構な人気だから、また近いうちにやるかもしれないけど」


「勘弁してください……マジで寝る時間なくなります……」


「その時はバグ処理とかのフォローは入れるわよ」


「ならいいんですけど……。それより、うちの父の件ですが」


「へ? なんで父? 森野君のお父さんってこと?」


「そうですよ。なんでうちの父がいるんですか」


「どこに?」


「王都のNPCに」


「はぁ? 何を言ってんのよ。プレイヤーならともかく、何で森野君のお父さんが……って、王都?」


「はい。ハンターギルドの本部って王族がトップじゃないですか。そこの第一王子にうちの親父が……よりにもよって王子ってなんなんだって話ですよ……」


 してやったりといった顔で笑う父親を思い出し、一樹はイライラする心を沈めるようにゆっくりと息を吐く。そんな彼の様子に首を傾げながら相楽はパソコンのディスプレイに向かうと、キーボードを鬼のように叩く。


「ハンターギルド、本部、第一王子……あら、この森野って人、『CLAUS』の系列会社の人みたいね」


「系列会社、ですか?」


「森野君、お父さんの勤めている会社も知らないの?」


「知ってますけど、ここの会社と繋がっているとは知らなかったです」


「まぁ、確かにね。会社の説明に輸入ビジネスってあるし、ここには研修ということで入っているみたいね。それにしても、なぜゲーム内で関わるような設定になっているのかしら……」


「知りませんよ……」


 うんざりとしたような顔をする一樹の胸ポケットで、スマホがメールの着信を知らせてくる。


「あー、父です。ラウンジにいるそうです」


「私も行くわ。森野君の上司として挨拶しなきゃ。お父様を見てみたいし」


「上司云々は関係なさそうですね」


 この後に見るであろう彼女のリアクションが想像できるなと、一樹は苦笑して作業室を出るのだった。







「ああ、やっとこれたー」


「ようこそ王都へ、だね。やっと会えたー」


 まだ微かに光る地面の文字の上をトコトコ歩く治療師のミユは、パーティを組んでいるアイリの姿にホッとしたような笑顔をみせる。そんな癒し系とスポーツ系の美少女二人が並ぶ図は周りの目、主に男性の目を多く集めていた。

 正体不明の男による襲撃により、エルフの国と聖王国王都を繋ぐ魔法陣が壊された。それが修復するのに一週間ほどかかったため、エルフの国にいたミユはちょうどいい機会だとエルフの神官長プラノから精霊魔法を習うことにした。

 治療師であるミユ一人ではエルフの国から出られずアイリも多忙だったため、魔法陣の修復を待つ方が二人にとって良かったのだ。


「でも、おかげで精霊魔法はかなり上達したよ。うっすら精霊の声も聞こえるようになってきたし。戦闘も攻撃に加われるよ」


「治療師のままで攻撃できるってすごい! 魔法はセンスっていうか、初期のステータスで決まるっていうからなぁ……私も精霊とか見えるけど使うっていうのは無理かも」


「アイリって細身な体なのに前衛で、力技で突っ込むことが多いよね」


「リアルで武術習ってるし、体を動かす方が性に合っているから」


「このゲームってリアルの体力も反映されるのがすごいよね……私も頑張らないといけないよね……」


 ミユは自身の体力不足のこともあり、激しい戦闘の後に治療魔法で筋肉痛などを回復させることもあった。精霊魔法には筋力などを高める魔法もあり、何やらズルしているような気持ちになり落ち込む。


「魔法があればいいじゃない。そもそもそれがゲームの醍醐味なんだから。リアルがそのままでしか出来ないなら、ゲームする意味ないよ」


「そ、そうかな」


「私も双剣はリアルで使わないから、ゲーム補正に頼りっぱなしだよ?」


「武術に剣とか使わないの?」


「こういう形の長剣は使わないかな。刀は使ったことあるけど、そもそも用途が違うし」


「なるほどー」


 ふむふむ頷くミユを見て、どうやら落ち込むのは回避できたようだとアイリは微笑む。


「あ、そうだ。王都のハンターギルドにも、ミユのことが知られていたよ」


「ええ!? 何それ!!」


「エルフの国の重要人物みたいなこと言われてたけど……ギルドマスターとか、そういう上の人しか知らないっぽい」


「そ、それならいいかな……」


「むしろ皆が知ってた方がいいんじゃない? エルフの神であるオリジン様の加護と愛を受けし女……みたいな」


「や、ややややだ、な、なななななにいってるのかな!」


「ミユ。動揺しすぎ」


「いやぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ」


 なぜかオリジンのセミヌード(フンドシ一枚)を思い出し、顔を真っ赤にして俯くミユ。それを知らないアイリは彼女の過剰な反応に驚き、しばらくオリジンの話題はやめておこうと心に決めるのだった。



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