91、緊急討伐依頼(オリジン、赤毛のギルマス)
ミユとアイリ、ムサシとアヤメが今の戦闘について語り合っている間、オリジンは彼らから少し離れたところに立ち思考にふける。
エルフの森イベントでもムサシとアヤメの戦いを見ていた一樹は、彼らの戦闘を間近で見たことにより思った以上に高レベルのプレイヤーであることが分かった。
これなら短い時間で火の精霊王を救出できるかもと考えていると、彼の周囲に再び青い光が集まる。光の中から現れたのは水の精霊王だ。
『これなら大丈夫そうだね。ただ魔獣の近くじゃ僕は力になれないよ』
「今の戦い、精霊魔法は水の下級精霊が?」
『中級くらいのもいたかな』
「それならなんとかなりそうです。彼らはかなり強い」
『渡り人って戦うのが好きだよね』
プレイヤーが強くなるには、この世界の魔獣を倒す、もしくはクエストをクリアしてスキルをアップさせていくしかない。NPCから見れば、プレイヤーは戦闘狂に見えるようだ。
「この調子なら一日もかからずに解決しそうです」
『エルフの神、申し訳ないのだけど山にいる魔獣すべてが精霊を食っているみたい。さっき倒された魔獣から火の下級精霊が解放されていたから、確かだと思う』
美しく整った顔を悲しげに歪ませ、水の精霊王はオリジンを縋るように見る。
「……数は分かりますか?」
『百はいないと思う』
思わず出そうになるため息を飲み込み、オリジン一樹はミユたちの元へ向かう。火の精霊王を失うことはこの世界に不具合を起こすことになるのは明白で、時間との戦いとなればなりふり構っていられない。
「少しよろしいですか。精霊王からこの山にいる、火属性の魔獣すべて倒す必要があるということらしいのですが」
「ちょっと! それは二日じゃ無理よ!」
声を荒げるアヤメ。隣にいるムサシも渋い顔で無言のままだ。不安げな表情のミユに、エルフの神は安心させるように優しく微笑む。
「ギルドに依頼を出しておきます。すぐに追いつきますので、しばらく別行動をしても大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思うけど……依頼を出すなら、この一文を加えたら?」
ムサシとアヤメが頷くのを見て、承諾するアイリはオリジンにこっそりと耳打ちする。その言葉に首を傾げながらも、オリジンは風の精霊魔法で飛び立った。
「アイリ、何を言ったの?」
「ん? 協力してくれた人は、オリジン様の限定水着姿が見れますって」
「ちょ、それ……」
顔を真っ赤にして慌てるミユの様子をアイリはニヤニヤと見ている。そんな美少女二人に、ムサシはさらに渋い顔になる。
「あのエルフの神って男だろ? 水着なんぞ見て喜ぶ奴なんているのか?」
「私は喜ぶけど。なんならムサシもフンドシになったら?」
「そんなもん見て誰が喜ぶんだ」
「この前、ムサシのファンだって言ってたマッチョな三人組は喜ぶと思うけど」
「……やめてくれ」
何かあったのだろうか、ムサシは小刻みに震えて歩き出す。
「斥候より前を行かないでよ! お嬢さん二人も行くわよ!」
「はーい!」
「は、はひっ」
オリジンが合流するまで、彼らはオオトカゲを倒すのを優先することにした。
ほどなく、ハンターギルドから緊急討伐依頼の通達がプレイヤーたちに届くのだった。
オリジンの姿からログアウトした一樹は、ついでとばかりに軽く食事をとる。
食堂に行く時間がない時のために、あらかじめ弁当を作ってもらっていたのだ。食堂では栄養バランスがとれたメニューが多く、それをテイクアウトすることも可能なのだ。
温める時間も惜しいと、そのまま食べた一樹は冷めても美味しいそれに驚きながら再びログインする。
少し埃っぽい執務室。
機密書類が多いため自分が掃除をしなければならないのだが、ギルマスにそのような時間はない。ステラに頼むのもきがひけるため、つい掃除をしないままになっている。
山となった書類から目を逸らしつつ、緊急討伐依頼の書類を作成し受付へと持って行こうとして立ち上がったギルマス一樹は、思わず固まる。
「お久しぶりですギルマス。お元気のようで安心しました」
「お、おう、久しぶりだな。ステラ」
気のせいかもしれないが部屋が冷えている。いや、気のせいではないようだ。
一樹が呼吸するたびに出る息が白い。真っ白だ。
「……ふぅ、分かっています。つい魔力が出てしまいましたが、ギルマスにもご事情があるのでしょう」
「悪いな。ちょっと世界が危ないから、急ぎ討伐依頼を出す」
「世界、ですか?」
「ここだけの話、火の精霊王が消滅するかもしれねぇ。これが解決したら戻るから、もうしばらく待っててくれ」
「精霊王の消滅って……本当に世界の危機じゃないですか! 依頼書は!?」
「エルフの神からだ。これなら多くの渡り人が動くって話だ」
「……水着? よく分かりませんが、直す時間も惜しいですね。このまま出します」
「頼んだ。あと場合によっちゃ、エルフの神がお前を連れて行くかもな。魔法なら狙えば火の精霊に影響は出ないだろう」
ステラは氷魔法の使い手であり、ハンターとしてのランクも高い。彼らの足を引っ張ることはないだろうと、一樹はギルマスの権限で彼女を依頼に参加するよう流れを作る。
「分かりました。協力の要請があれば受けるようにします」
「頼りにしてる」
「……っ!! はいっ!!」
赤い髪をくしゃりと搔き上げ、ニヤリと男くさく笑ったギルマスの不意打ちな色香にステラは一瞬息を飲む。しかしすぐに持ち直すと、きりりとした表情で返事をした。さすがである。
そんな彼女の戦い?を知ることなく、ギルマス一樹は室内に設置されている移動の魔法陣に乗り、そのままログアウトした。
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