25、できるエルフ、神官プラノ(オリジン・エルフ)
ミユの話は時間がかかるとのことで、アイリはパーティのメンバー同士でやり取りできるメッセージで先にログアウトすると送った。
珍しく父親が戻ってくるとのことで、母親から早く戻るように言われていたのだ。兄はいいのかと聞くと、仕事を優先にするようにとのことだった。
「お相手ありがとうルトさん、ミユのことをよろしくね」
「ミユ様を待たず、よろしいのですか?」
「ええ、用があるから先に帰ることにするわ」
アイリはエルフたちの丁寧な対応に安心してミユを預けることにした。そんな彼女の気持ちを裏切るかのようにオリジンの部下たちが動いているなどと、カケラも思ってはいなかったのだ。
エルフ兵の中でも際立って美しい青年であるルトは、オリジンの伴侶候補であろうミユの連れに対し失礼のないように対応していたが、なぜか不思議に穏やかな気持ちになっていた。
(どことなく、オリジン様に似ているような気がする……)
血を分けた兄妹であるため似ていて当たり前なのだが、ゲームの補正などで外見はリアルとまったく同じではない。それでも兵長ルトは彼女の中にオリジンを感じていた。
「では、町までお送りしましょう。神殿は広いですから」
「そうね。お願いするわ」
そう言ってアイリは微笑むと、その魅力にエルフたちも思わず見惚れてしまうのだった。
一方、オリジン一樹は今までにないピンチに陥っていた。
「プラノ……ミユさんが驚いていますよ。神殿には他に部屋もあるから……」
「ですがオリジン様がミユ様の近くにいる必要があるということは、部屋も近い方がよろしいでしょう?」
「ダメですよ。ミユさんは未婚のお嬢さんなんですから。これでは夫婦のようになってしまう」
「だからこそ……ゲホゲホ、いえ、これは緊急事態なのです。未婚のミユ様だからこそ、しっかりお守りしなければ」
ダメだ。
無駄に頭も顔もいい美少年エルフのプラノに勝てる気がしない……と、一樹は絶望の表情を隠して、オリジンとしての穏やかでなおかつ困ったような笑みを浮かべる。
そして、現状として何が問題か。それはもう火を見るよりも明らかだろう。一樹が『エターナル・ワールド』にログインする時、彼は全裸である。さらっと「全裸」と言っているが、これは部屋に誰もいないと分かっているからこそ出来ていた偉業?なのであった。
初日にちょっとしたハプニングはあったものの、以降プラノが服を着る前に入ってくることはなくなったし、着替えは一人で出来ると断っているから全裸の時は一人なのだ。もう一度言おう。全裸一人なのだ。
ラッキースケベなぞ女性側が受けるとしたら嫌がらせにしかならないだろう。とにかくこの部屋の配置だけは回避せねばと、一樹はすがるような目でミユを見る。
「ふぁ……ふうふって……ふぁぁ……」
ダメだ(二回目)。
これはもう危険が危ない状態ではあるが、アイリに頼るしかないと一樹は高速で脳を働かせる。ミユのことを大事に思っているのは、馬鹿どもを刑に処した時に分かっていた。自分たち兄妹は可愛いものに弱いのだ。
「プラノ、ミユさんの連れの方は……」
「帰られました」
「おぅふ……」
今、エルフの神にあるまじき音声を発してしまった気がするが、この際どうでもいい。困り果てた一樹に、ようやく自分を取り戻したミユが眉を八の字にして口を開く。
「あの、ご迷惑なら私……」
「いえ、そんなことはありませんよ! こんな素敵なお嬢さんの近くにいれるなんて!」
しょんぼりとした様子のミユに対し、条件反射のようにキラッキラの『オリジンスマイル』を発動した一樹は、内心「やっちまったああああああ」と悶えているのを一切表に出さず穏やかな笑みを浮かべている。
そこにすかさず美少年エルフが「お食事を用意しておりますが、よろしければ……」と絶妙なタイミングで提案する。
喜ぶミユを笑顔で食堂に案内するプラノを見ながら、一樹は貼り付けた笑顔で「後から食堂に向かいます」と言って寝室に入りログアウトした。
「相良さん!!」
「はいはい、お疲れちゃーん。そんで同棲おめでとーん」
「どうせ……何を言ってるんですか!! そしてなんですかあの人工知能は!!」
「人工知能はこちらではどうにもできないのよねー。彼らは好きなように生きて、成長して、世界を創っているから」
相良は母親のような慈愛に満ちた表情で語る。そんな上司の様子に焦るばかりだった一樹は、少しずつ自分の心が落ち着いていくのを感じていた。
「彼らが……エルフたちが俺に求めているっていうんですか」
「そうね。このゲームは子孫を残すこともできるし」
「それって、十八歳にならないとダメなやつですよね」
「もちろんよ。審査も厳しいし、あまり活用する人はいないんだけどね」
この『エターナル・ワールド』では、成人用の権限でNPCやプレイヤー同士で結婚し、子供を作ることもできる。子供はそのままこの世界のNPCとなるのだが、リアルで色々あったプレイヤーがこのシステムで癒されたという、心温まる話もあったりする。
オンラインゲームで自分の子供ができるというものは他にもあるが、子供に人工知能が搭載されるためかなり育てるのに本格的な育児をするのが必要だ。ちゃんと愛情を込めて育てないと、先々良くないことが起こったりする……らしい。
「運営とはいえ、森野君もNPCなんだから、子供作れるわよ?」
「作りませんよ! あの子は高校生ですよ!?」
「んー? 別にあの子と限定してないけど?」
「ぐっ……、と、とにかく! エルフの国のイベントが終わるまで、ですよね!?」
「ええ。よろしくねーん」
「くっそ……」
「あ、そーた。ログインする時に全裸になるやつなんだけど」
「変更してもらえますか!?」
「それやるとサーバー落としてやらなきゃならないみたいだから、そのまま頑張ってー」
「くそったれーーー!!」
叫ぶ一樹は、泣きながら再びログインするのだった。
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