24、ミユとの話し合い(オリジン・エルフ)
神官長でありオリジンの側付きであるプラノに呼ばれ、そのまま案内されているミユは戸惑いを感じていた。
ゲームの中の住人であるNPCでありエルフの神であるオリジン。彼に呼ばれているという話を聞いただけで、湧き上がる胸がキュッとする気持ち……これが次元の違う人に憧れるという気持ちなのかと考えていると、見たことのあるような扉の前に立つ。
「以前は中からいらっしゃいましたが、ここがオリジン様の応接室となっております。その奥の部屋が寝室です」
「あ、そ、そうですか」
初めてオリジンと会ったその日に、ミユが連れてこられたのはなぜか寝室だった。その時のミユは体力がかなり減っていたのもあり、動けなくなっていたから休ませようというオリジンの親切心だったというのは分かっていた。が、しかし……。
(やっぱり寝室って、ちょっと、恥ずかしいっていうか……)
あの時、自分の服を脱いで貸してくれたオリジンは上半身裸の状態で、思い出すたびにミユはドキドキしていた。ちなみにミユが見たのは彼の上半身のみで、実はフンドシ一枚だったという衝撃的な事実を彼女は知らない。人間知らなければ良いことが多々あるものなのだ。
そんなミユのソワソワした様子に、プラノは微笑みつつドアを開く。ノックもしない神官に驚く彼女に向けて、中にいる美丈夫なエルフはソファにゆったりと腰をかけたまま笑顔を見せた。
「すみません、急にお呼びしてしまって。あなただけに話すことがありまして」
「いえ、あの、大丈夫です。色々とお心遣いいただいているようで、私の方こそしっかりとお礼を言ってなくて……」
「エルフの国で起こったことですから、当然のことをしたまでですよ」
「そう、ですか」
なぜか少しがっかりした様子のミユに、オリジンの横に控えていたプラノが口をはさむ。
「それでも、ミユ様が初めてですけれどね。この国でも他の国と同様、日々事件は起きてますから」
「プラノ!」
「ふぁっ……、そ、そうでしゅか……」
思わず噛んでしまうミユに内心悶えながらも、オリジン一樹は極めて穏やかな表情をキープしている。なぜか彼女の前では意地でも格好つけたいと思ってしまうのだ。
それにしてもプラノの言葉で、ミユは顔を真っ赤にしているのが可愛らしすぎる。後で彼を褒めてやらねばと思いながら一樹は続ける。
「話というのは、ミユさんがエルフの国にいるあいだ、私の側にいて欲しいというお願いです」
「そ、そそそそばですかっ!?」
「はい、実はですね、あなたには私の加護を授けているのですが……」
「ええええ!?」
ステータス画面における加護の欄は、一番下にあるためスクロールしないと見ることができない。加護を持つプレイヤーは少ないため、ミユだけではなくほとんどの人は一番下までステータスを見ないだろう。
「ミユさんの危機はそれで分かることもありますが、今回はあまり効果がなかったことに気づきましてね……それで私が近くで見ることにしました」
「そんな……ご迷惑じゃ……」
「守る対象が可愛いお嬢さんなんて、エルフの神として嬉しいことですよ」
ニコリと笑顔で言うと、ミユは恥ずかしそうに俯いた。そんな彼女を見ながら上司である相良とのやり取りを一樹は思い出す。
『どうやら、今回みたいな事件は他の運営では確認できていないわね』
『今回が初めてだったということでしょうか』
『システムの改変もしたから、こういうことは出来なくなった……と思うわ。残念ながらハッキングする暇人たちとの攻防は日々起こっているから。それよりも首謀者が見つからないのが気になるの』
『彼女を辱めろという命令した奴ですね?』
『彼女を、というところが気になるわ。だから、しばらくオリジンとして彼女と一緒にいてほしいの。ゲームの中だけでいいわ。寝食共にするのよ』
『ええっ!?』
寝食共に……とは言いすぎだろうと一樹は考え、とりあえずミユに神殿にいてもらおうと決めた。
幸いにもエルフの国のイベントは、あと一ヶ月近く続く。それまで上手く彼女を引き止められたらと思ったのだ。
「ミユさんは、この国の危機である『強き魔獣』の討伐に加わっていただけるのですよね?」
「ええ、一応そのつもりですけど……」
「討伐に失敗すると、犠牲になるのはここにいるプラノなのです。それだけは食い止めたいのです」
ゲーム補正の入っているオリジンの美しく整った顔が、悲しげに歪むのを見てミユは思わず口走る。
「絶対! 絶対プラノさんを犠牲になんかさせません! 私が守ります!」
「ミユさん……!!」
以前ミユに親切だった上、先程の罪人たちに対する毅然とした態度をとったプラノに悪感情など一切ない。むしろここは色々助けてくれたオリジンや、神殿のエルフたちに恩返しをするチャンスでもある。
大規模の討伐では、多くのプレイヤーが一丸となって立ち向かうため、治癒師であるミユも回復担当として必要とされる人材だ。きっと役に立てると張り切るミユに、オリジンの一樹は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます! では、ミユさんはしばらく神殿にいてもらいましょう……プラノ、彼女の部屋の用意を」
「用意はできております」
「え? そう? 早いですね」
「はい。この時を待っておりましたから」
なぜか目をキラキラさせて嬉しそうなプラノは、そのままオリジンの寝室に向かう。首を傾げる一樹とミユに、彼は笑顔のまま寝室への扉を開けると、その奥にあるもう一つの扉を見せて言った。
「この奥がミユ様専用の部屋となっております」
「「ファッ!?」」
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