107、エルフの国の神殿へ(オリジン・エルフ)
土の精霊王の力なのか、狼族マリー走る速度は凄まじいものだった。並走しているハリズリも、土の属性が強いせいかマリーの速度に息を切らすことなくついてきている。
砂漠地帯からエルフの国まで「森」を伝っていくことは遠回りになるのだが、あまり見ない獣人のマリーと一樹の腕の中にいる土の精霊王は目立ちすぎるための遠回りだった。
「よし、ここでいいよマリー」
エルフの森にさしかかったところで、一樹はマリー足を止めさせる。金茶色のモフモフ毛並みをひと撫ですると、一樹は彼女の背から降りた。
馬ほどの大きさの狼から、少年のようにしか見えない人型になったマリーは一樹を見上げ首をかしげる。
「ここで、いいのか?」
「大丈夫。エルフの国に入れば他の精霊王が来てくれるよ。風の精霊王が一番早いかな」
「わかった。また呼べ」
あっさり納得したマリーは、再び狼の姿になり森の中へと消えていった。
「また呼べって、どうすりゃいいのさ? マリーとか言えばいいの」
「呼んだか」
「うわっ!?」
上から落ちてきた金茶色の塊に、一樹は驚きのあまり腕の中の赤子を落としそうになる。幸いにも本人(?)はスヤスヤと寝たままなのを確認してホッとする。
「何用だ」
「名前呼ぶだけで来るのか……びっくりした……。ごめん、用は無いんだ」
「そうか。また呼べ」
そう言うや否や、彼女は森の中へと消えた。
今度はもう戻って来ないことを確認した一樹は、深々とため息を吐いた後、荷物の中からテントを取り出し設置する。
「薬師からオリジンに切り替えないとな……ハリズリ、この子を見ててくれるか?」
「ワゥン!」
念のため周りに結界の魔道具を置き、一樹はテントの中に入り赤子を置くとログアウトした。
『うー……まっま?』
一樹の気配がなくなったことに気づいたのか、土の精霊王が起きてしまう。
テントの入り口で見張りをしていたハリズリは、起きてハイハイしていた赤子に尻尾を鷲掴みされる。
「ワフゥン!?」
『まんまー』
「ワゥン、ワゥゥワン」
『まっま?』
「クゥーン……」
なぜか通じ合う赤子と犬。
いや、土の精霊王と精霊獣なのだから、もしかしたら会話ができているのかもしれないのだが、はたから見れば可愛い赤子と柴犬だ。
一樹が戻るまでの間に、彼らは親交を深めていくのだった。
天蓋付きベッドから起き上がるオリジン一樹は、用意されている貫頭衣と下着(フンドシ)を手早く身にまとうとプラノの気配を察知する。
「いますかプラノ」
「はい、オリジン様。お戻りを感謝いたします」
「精霊王たちは?」
「庭園で茶会を。ミユ様とアイリ様と共におられます」
いつになくオリジンの気が急いているのを察したプラノは、話しながらも庭園へ向かって歩きだす。周りにいる下級精霊たちも多く集まっているようだ。
何よりも、ここではあまり見られない土の精霊が見られることにプラノは驚く。
「気づきましたか」
「もしや、土の精霊王様が?」
「ええ、そのために他の精霊王の力が必要です」
本来、一樹が契約している精霊王であれば、ひと声呼べばどこにでも現れる。
それをしなかったのは、赤子の姿である土の精霊王が狼族の隠された村、さらに洞窟奥深くにいたからだ。
外部からの干渉を避けていた事の中に、他の精霊王のも含まれているかもしれないと一樹は考えたのだ。
庭に出れば、ふんわりとしたオレンジの髪をなびかせてミユが駆け寄ってくる。
「オリジン様! お久しぶりです!」
「お久しぶりですミユさん、その節は色々と助けていただきありがとうございます」
「いえ、私はほとんど役に立ってなくて……」
「ミユさんがいてくれたからこそ、焦らずにたいしょできたのですよ」
「オリジン様……」
一樹が蕩けるような笑みを浮かべれば、ミユの頬は薄紅色に染まる。
そしてそれを腕を組み、半眼で見ているアイリの姿が。
「あのぉー、わたしもぉー、いるんですけどぉー」
「いらっしゃったんですね、アイリさん」
プラノから来客があると知らされた中にアイリの名もあったはずなのだが、オリジン一樹は今知ったかのように笑顔で返す。
これが格差というものかとアイリが「ぐぬぬ」という謎のうめき声を発していると、プラノが微笑みを浮かべたまま一樹に小さな声で伝える。
「風の精霊王様と、火の精霊王様がいらっしゃっております」
「ありがとうプラノ」
そう言ってオリジンが目を向ければ、風と火の精霊王が近づいてくるのが見えた。
『我らに用があれば、契約において呼び出せば良いものを……おや、土のを見つけたか』
いち早く情報を得た風の精霊王がオリジンの近くにいる土の下級精霊を見て言う。火の精霊王が静かにしているのを疑問に思ったが、とりあえず今は置いておくことにする。
「ええ、その件で聞きたいことが……生まれたばかりの精霊王をここに置いても?」
『ふむ……お主が庇護者であれば問題なかろう。我らの力で反発を生むこともない』
「なるほど、そういうことですか。プラノ、少しの森へ出てきます」
「かしこまりました」
オリジンは付き添いや護衛を断ることが多い。そもそもエルフの神を害そうとするのは難しいだろう。
そうプラノは学んだため、一樹の言葉にただ従うようになっていた。
慌ただしく出て行くオリジンを、ミユがどこか寂しそうに目で追っているのにプラノは気づく。
「ミユ様、すぐに戻られますのでこのままいらっしゃってください」
「え、いいんですか?」
「せっかくミユ様専用のお部屋もあるのですから、ぜひとも。アイリ様もご一緒に滞在してくださっても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!」
「え、私もいいの? やったぁ!」
嬉しそうに喜ぶ女性二人を微笑ましく見るプラノはこの少し後、己の言動を後悔することになるのだった。
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