120、久方ぶりの再会(オリジン・エルフ)


 オリジンとしてログインした一樹は、ベッドの上で貫頭衣と下着(ふんどし)を身につけたところで白い毛玉に襲われる。


「キュウウウゥゥゥン!」


「シラユキ、久しぶりだね」


「キュゥン! キュゥゥン!」


「さみしかった?」


「キュン!」


 その小さな体を全部使い、寂しかった会えて嬉しいを表現するシラユキの可愛さに悶絶しながら、一樹は優しく撫でてやる。

 そのつぶらな瞳を潤ませている小さな毛玉は、一樹の代わりに赤子の精霊王を見てくれていたのだ。


「ごめんねシラユキ、ありがとう」


「キューン」


 オリジン一樹の言葉に、嬉しそうに尻尾を振っているシラユキの愛らしさたるや。一樹は思わず運営モードでスクリーンショットを連写で撮ってしまう。

 そこに、神官長プラノがそっと声をかけてきた。


「オリジン様、お客様がお見えです」


「ありがとう」


「申し訳ございません。土の精霊王様がお客様から離れなくなってしまいまして……」


「ふふ、想定内ですよ。彼女ならきっと精霊王の力になってくれるでしょう」


 シラユキを抱いたままベッドから降りた一樹は、いつもより増えた下級精霊たちを身体にまとわせ応接室へと向かう。

 部屋に入ると、巫女服の女性が赤子を抱いていた。


「はじめまして、巫女殿」


「そうね。はじめまして、ね」


 小さな声で挨拶を交わす二人。

 たゆんとした胸に埋もれるようにしている赤子は、すやすやと穏やかな寝息をたてている。


「この子はまかせておいて。しばらくはここで見ていてあげるから」


「ありがとうございます」


「うーん、やっぱりその姿はイケメンね。一番好きよ」


「光栄です」


 ゆるく結わえた銀髪を肩にたらし、ゆったりと椅子に座る姿も美しい。堂々たる『エルフの神』を演じる一樹の様子に、巫女は満足げに微笑む。


 そんな二人の様子に、プラノは不思議と穏やかな気持ちになっていた。

 この世界の人間と同じ存在である渡り人だが、彼らは『渡りの神』が遣わしたいわば神の使徒である。エルフの神であるオリジンとは、どこか通じ合うものがあるのだろうかとプラノは考えていた。

 ミユを伴侶に選んだのはもしかすると……と考えたところで、プラノはその思考を否定する。


「どうしました、プラノ?」


「いえ、お茶のお代わりはいかがでしょう」


「お願いします」


「あ、私も欲しいな」


「かしこまりました」


 オリジンがミユを伴侶にした理由、それはきっと神(オリジン)のみぞ知ることなのだろうと、プラノは新しい茶葉を用意しながらくすりと笑った。







 『エターナル・ワールド』において、ソロプレイヤーである友人から「相談にのってほしい」というメッセージを受け、アイリはミユと共にエルフの森近くにある小さな村に来ていた。

 小学生の頃から愛梨の友人だった幸恵(ゆきえ)は、当初二人でゲームをプレイする予定だったのだが、とある理由からソロプレイヤーとなった。


「たしか幸恵ちゃん……ユキちゃんは獣使い(テイマー)だったよね?」


「最近『育成者(ブリーダー)』って職業もステータスに出てきたんだって」


「それって……」


「うん。たぶん公式には出てないやつだと思う」


 アイリの『双剣使い』もレアなものだが、ユキも相当なものだとミユは思っている。

 ちなみにミユの持つ『治癒師(ヒーラー)』は最初から選ぶことができるが、成長が遅くレベル上げに苦労するため不人気職だ。

 ミユのレベルに到達している治癒師は少ないだろう。そして治癒魔法の他に精霊魔法が使えるプレイヤーは、果たしているのかどうか……。


「アイリ! ミユちゃん! こっちだよー」


「ユキ、久しぶり!」


「ユキちゃんすごい! 家があるんだね!」


 この小さな村は、エルフの国が開放される前にプレイヤーたちが駐屯していた場所だった。

 そこから『強き魔獣討伐戦』の公式な駐屯地となり、終了後はセーフゾーンのまま放置されることとなる。そこに現れたのは生産職、主に農業や畜産業をメインとしているプレイヤーたちだ。

 彼らは田舎でスローライフを送りたい人が泣いて喜ぶような、畑や牧場の広がるどかな風景を作り上げていく。


 レンガ造りの壁に、三角の屋根が可愛らしい家を見て目を輝かせているミユに、含み笑いをしながらユキは説明する。


「んふふー。討伐イベントが終わったあとに、たまたまここでキャンプしながら魔獣をテイムしまくっていたら、セーフゾーンのまま放置されてることに気づいたんだよね。即行、建築士のプレイヤーに家を建ててもらったんだー」


「テイムした魔獣たちの小屋は?」


「裏にあるよー。そこに、相談したい子がいるんだー」


「相談したい子?」


 少し待っててと、ユキは家の裏にぽてぽて歩いていく。

 アイリとミユが首をかしげて顔を見合わせていると、何やら不思議な鳴き声が聞こえてくる。

 いや、鳴くというよりも、まるで泣いているかのような悲しい声だ。


「ピルルル、ピルルルルー」


「ふぉっ!?」


「ミユ!?」


 突然、ミユの目の前が緑色に覆われ、顔に受けた衝撃で後ろに倒れてしまう。


「ごめんミユちゃん、そっちに行っちゃったー」


「言うのが遅い!」


 裏からぽてぽてと出てくるユキに、アイリはするどいツッコミを入れる。


「ふぉぉ……ふわふわで気持ちいい……」


「ピルルゥー!」


 顔を緑色の羽毛に包まれているミユは地面に倒れたまま、至福の表情でピルピル鳴くその謎の生き物を撫でていた。


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