94、有能な魔道具(オリジン・エルフ)



 何度か爆音が聞こえ、しばらくして現れたのは一樹が『旅の薬師』モードの時に会っていた魔道具技師のコトリだった。彼女が後ろ手に持っている何かがバイク部品のようなものに見えるが、光の速さでマントの内側に隠してしまった。一体そのマントの内側はどうなっているのか聞けば「乙女の秘密」とのことである。


 アイリからのハリセン攻撃で、自分がミユを抱きしめていたことに気づいたオリジン一樹は、慌てて彼女を解放する。


「す、すみませんミユさん! 苦しくなかったですか!」


「ふぁ、だ、だいじょぶです……」


 まったく大丈夫に見えないミユは、なんとか気力で自分を取り戻す。

 先ほどまでフラフラしていたステラは、すでに回復して周囲を氷魔法で囲う。火属性のトカゲが入ってこないように氷のバリケードが作っていたのだ。


「こうなると物理攻撃主体の私たちはキツイかもね」


「アイリちゃん、これどうぞ」


「ハリセン?」


 笑顔のコトリがアイリに手渡したのは、先ほどまでオリジンをどつき回していたものとは色違いのハリセンだ。受け取ったもののハリセンをどうしろというのか。


「あそこまでハリセンを使いこなしているなら、これもきっと使えると思う。クリティカルヒットを出すと、魔獣の属性を解除する魔道具なの」


「属性を解除!?」


「これぞ『うまいこと当たれば魔獣が無属性になるかもねハリセン』!!」


「なげぇよ!! そのままかよ!!」


 さすがにムサシがコトリにツッコミを入れる。姉弟漫才である。

 そんな二人の横で、アイリは驚いたようにハリセンを見る。属性を解除するとは……クリティカルヒットさせる必要があるものの、その効果は凄まじいものがある。

 

 例えば火の魔法が得意な魔法使いがいたとして、火属性の魔獣がいるとする。通常であれば倒すのが困難であるが、このハリセンで無属性にすれば火の魔法で楽に倒すことができるようになる。


「これって、ちょっと反則なアイテムになるんじゃ……」


「そう? これ武器じゃなくて魔道具だから、普通の武器スキルじゃ取り扱えないの。アイリちゃんは楽々振り回しているけれど、普通の人はそこまで上手く叩いたりできない。さすがアイリちゃん!」


 アイリを持ち上げるコトリに、ミユはおずおずと問いかける。


「あの、コトリさん。もしかしてその魔道具……」


「そうなの。実はこれ、失敗作なの」


 売れない魔道具ばかり作っちゃうの何でだろうなどと、歌って誤魔化すコトリ。オリジン一樹は「そういえばギルドで調べた時にも妙な魔道具を売ってたな」と思い出す。

 コトリの作る魔道具は妙なものばかりだ。あの時に売れた調理器具は、実は依頼されて作ったものだったりする。


 属性の「解除」という言葉に、オリジン一樹は希望を見出してコトリを見る。


「この魔道具は一つだけですか?」


「もう一つあるけど、私が使うので」


「姉さん、使えるのか?」


「自分で作った魔道具なら、武器だとしても例外としてスキルなしで使えるの」


 そう言いながら氷のバリケードを飛び出したコトリは、集まってきた火のトカゲをスパンスパン叩いていく。すると赤い光のようなものが魔獣から出ていくのを一樹は見た。


「火の下級精霊が解放されていますね」


「アイリ!」


「まかせて!」


 コトリを追って飛び出したアイリは、電光石火の素早さで火のトカゲの間を駆け抜けていく。スパパパパンと音が鳴り響いたと思うと、多くの赤い光が花火のように飛び出した。


「おい、俺たちはトカゲにトドメを刺すぞ」


「了解!」


 ムサシとアヤメは無属性となったトカゲの魔獣を次々に斬り伏せていく。

 ステラは氷を魔獣の足元に這わせ、動けなくさせたところをアイリとコトリのハリセン攻撃という流れにもっていかせた。


「オリジン様」


「どうしました、ミユさん」


「私たち、出番なさそうですね?」


「そうでもないですよ。ほら、こうやって……」


 オリジン一樹が何事か呼びかければ、赤い光が集まってくる。火の下級精霊もエルフの神を好いているようだ。


「ミユさんも呼びかけてください」


「集めてどうするんですか?」


「精霊たちに、力を貸してもらいましょう」







 急きょ結成された異色のパーティは、流れるような連携プレーで火属性のトカゲを倒していった。

 ハンターギルドで出された依頼で集まった他のプレイヤーの協力もあり、火山周辺にいた魔獣たちは数時間でほとんど倒された。


 残りはドラゴン型の魔獣だが、さすがに数人のパーティで討伐するのは難しく、参加できる他のパーティも加わるレイド戦となった。


「おい、あれってエルフの……」

「マジかよ。NPCと一緒に戦うとか。すげぇ」

「筋肉エルフ神様……素敵すぎる……」

「あの横にいる子、可愛いけど誰だ? プレイヤーだよな?」

「可愛いな……」

「マッチョエルフ様くんかくんか」


 一部に怪しげなプレイヤーがいるが、今はそれどころではない。火の精霊王を救うには、早くドラゴンを倒す必要があるからだ。

 それは分かってはいるものの、後衛にいるミユはオリジン一樹と共にいることに恥ずかしさを感じていた。

 やたらと目立つ浴衣姿の美丈夫エルフは、時折ミユに向かって笑顔で話しかけるのだ。




 グアアアアアオオオオオオオオオオオン!!




 凄まじい咆哮による地響き、思わず竦みあがりスタン状態になるプレイヤーがちらほらいるが、コトリが素早くハリセンでスパンスパン解除していく。状態異常からの回復ハリセンである。

 エルフの国イベントでの『強き魔獣』を彷彿とさせる大きさのドラゴン型魔獣が、火花を散らしながら火山の火口から現れると同時に、炎の雨がプレイヤーに降り注ぐ。


「風よ!!」

「火よ!!」


 ミユが風の精霊を使って一瞬炎を止め、オリジンが火の精霊に炎を吸収させる。

 一瞬の熱さを感じただけで、ドラゴンが出す炎の攻撃は無効化された。


「足からいくぞ!! 突撃!!」


 トップランカーであるムサシの号令と共に、プレイヤーたちは鬨の声をあげて総攻撃を仕掛けていった。

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