最終章:新しい神

第109話 魔王の正体

「……見た感じ、魔物の創造主、悪の権化という感じはしませんね」


 普段のジェシカさんは、見た目で人を判断するようなことを是とする人間じゃ無いんだけど。

 これはそれの対象外なのか。


 まぁ、さすがにね。


 魔王は、中性的な美形の人間にしか見えなかった。

 身体を見ると、乳首も性器も、乳房も陰毛も何もない。

 人外の存在であることが一瞬で分かるけど。


 それでも「悪鬼」という見た目じゃなかったんだ。


「そいつはどうもありがとう」


 魔王は笑っていた。


「……ロリアはどこにいるの?」


 セリスの言葉。

 彼女はまず最初に、そこを訊ねる。


 ジェシカさんが思わず出てしまった最初の関心は魔王の見た目で。

 セリスの場合はそこなんだな。

 セリスはクールだけど、人情や倫理には煩いもんな。


 16年間ずっと俺の姉だったから、そこはもう理解してる。


 ジェシカさんは狂信者だから、自分の狂信のイメージにそぐわない魔王の見た目は気にはなるだろう。

 けど決して、ジェシカさんがロリアのことはどうでもいいってわけじゃないんだ。


 魔王は


「それは僕を倒すことだね」


 ニコニコしながら。

 魔王は自分を倒せばいいという。


 倒せばいい、か……


「そりゃ、おかしいだろ」


 俺は指摘する。


 魔王が俺に視線を向ける。

 俺は続けた。


「アンタの死がトリガーになって作動する魔法でもあるのか? 例えば? ここに来るまでに隠し扉がありそうな箇所なんて無かったし……」


 俺は部屋を両手で示す。


「この部屋にも、誰も居ないし、何もないじゃないか!」


 ……そう。


 魔王しか居ないんだ。

 ロリアもだが……母さんも!


 おかしい。

 ロリアが居ないことは見過ごすにしても……


 母さんがいないのにこれは変だ!

 親父曰く、ここに囚われているんだろ!?


 なのに何もない!


 服も、食料も、水も、何もかも!


 おかしい!

 人が生きていくには、そういうものは欠かせない!

 生きていけないはずだ!


 変過ぎる!


 この城に入って、ここに来るまで。

 違和感が拭えなくて。


 ここまで来て、決定的になった。


 俺のそんな言葉に


 セリスがさらに追撃する。


「……魔王っていつから居るのか不明なのよね」


 そうなんだよ。

 俺たちの国・アトペント王国が建国されたときには既に存在していて。

 神話にはその存在が書かれていない。


 だから……


 1つ、疑っていることがあった。


 それは……


「魔王、あなたは……」


 セリスの問い。

 それは俺も考えていた、1つの可能性


 それは……


「七柱目の神・サンヴィリアではないの?」


 それは亡霊の街カタストで聞いた話。

 この世には六大神以外の、七柱目の神が居ると。


 それがサンヴィリア。

 曰く、六大神教を作った神様……!

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