第87話 あなたはどうなの?

「何を階段上ろうとしてるんですか!? 死ぬんでしょう!?」


 バタバタ暴れているけど。

 ジェシカさんは俺から脱出不能で。


 ジェシカさんは女性としてはかなり力が強い方だけどさ、俺の比では無いんだよね。

 だから俺が羽交い絞めにしたら、そこで終了なんだ。


 ジェシカさんは


「死ぬのは最初の1人だけです!」


 そこで真っ青な顔で涙を浮かべながら、白状したんだ。

 自分が隠していた重要項目を。


 ジェシカさんは


 階段を上った人間の、最初の1人が死ぬ。


 そう囁かれたらしい。


 ……だから


「この中で、私が1番命が軽いんです!」


 そう真っ青な顔で訴えて来たんだ。




「勇者様はただ1人! セリスさんは天才です! そしてリリスさんは大貴族のご令嬢!」


 その言い方には迷いが無くて


「だけど私はただの神官! 私だけが替えが効く! だからここは私が」


「そんな判断止めて下さい!」


 俺はジェシカさんの言葉を遮って、さらに大声で打ち消した。


 ふざけないでくれ。

 ジェシカさんだってそうだよ。


 代わりなんていないんだ。


 ……そしてここに来て。

 俺はジェシカさんの心境を理解した。


 ジェシカさん、候補者にロリアを挙げなかった。

 冷徹に死ぬとまずい人間を考えた場合、ロリアと自分がそこから外れると思ったんだと思う。


 だから自分が行こうとしたんだろう。


 話し合いで、ロリアに行かせようという結論が出ることを恐れて。

 自分以外の誰かを「一番価値が低いから捨て駒に」というアイディアの下に死地に向かわせる……


 そんな状況が生じることを恐れていたんだろう。

 あまりにも酷いからな。


 人にだって万物同様価値の上下があるけど、それは価値の低い人間は死んでも一向に構わないって意味じゃ無いはずだ。


 ……だから言わなくて……だから自分が行こうとしたんだ。


 でも……


 リリスさんは「先着1名以外皆死ぬ」と言われてて。

 その囁きを全面的にリリスさんが信じていたら、今の様子はどう映ったのか。


 俺はリリスさんに視線を向ける。


 リリスさんは……

 驚いていたけど、別にジェシカさんを見下げ果てた、幻滅したという目で見ていなかった。


 だから多分……確信してる。


 俺は


「俺は、この階に最後に残った1人が死ぬと囁かれた」


 ……自分の分の囁かれた内容を皆に告白したんだ。


「……なるほどね」


 姉さんも確信してるみたいで。


 だから


「ねえ、ロリアさん」


 姉さんは訊ねた。

 ロリアに


「何ですかァ?」


 俺たちの様子に戸惑っているロリアは

 姉さんの言葉に応じ、向き直る。


 姉さんはそんな彼女に続けたんだ。

 この言葉を。


「……あなたは何か囁かれた?」

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