第88話 試練の真意

「えぇと」


 問われたロリアは、困った顔をしていた。

 果たして言ってもいいものか?

 そんな思いが見て取れる。


 彼女は


「……信じて貰えるかどうか怪しいんでスけどォ」


「言ってみて」


 ロリアの前置きに、姉さんの先を促す言葉。

 どんなもんでも聞くから。


 そう言う意思表示。


 それに安心したのか、ロリアは


「なーんも、言われてないス」


 んんん?


 ロリアだけ、何も囁き無し?

 何で?


 俺は姉さんの表情を見る。


 姉さんは……


 少し考え込んでいた。


 だから俺も考えた。

 出来る限り真剣に。


 俺たち5人、ロリア以外は何かしら心を揺さぶられるような囁きをされている。

 なのにロリアだけされてない……


 これはどういうことなのか?


 ……他の全員の事例を挙げて考えようか。


 俺。

 この階に最後まで残ると死ぬ。

 この囁きで引き起こされるのは、階段の奪い合い。


 姉さん。

 この階には長居できない。

 この囁きで引き起こされるのは、3階への移動の呼びかけ。


 ジェシカさん。

 1番最初に3階に登ると死ぬ。

 この囁きで引き起こされるのは、生贄の選定。


 リリスさん。

 ここにいる人間で、生き残れるのはただ1人。

 この囁きで引き起こされるのは、生存者の選定。


 ……囁き内容がバラバラなのは、自分の知ってる狭い情報だけを真理と考え、仲間を信じない場合に不和が起きるように、だろう。


 実際、不発に終わったと信じたいけど、ジェシカさんの行動は、絵だけで見るなら自己保身行動にしか見えないし。

 他の誰が犠牲になっても、自分だけは助かりたいっていう。


 俺はそんなこと、全く思ってないけど。


 ……で、この状況でロリアの「自分は何も言われてません」


 ……これ、信頼が足りないとさ「嘘を吐くな」にならんか?

 何か決定的な情報を隠してるんじゃないのか、って。

 もしくは知らないふりをしている? みたいな。


 ……だったら


「ロリア、3階に上がって」


 俺が口を開く前に、姉さんが言ったんだ。




「えっと、マジすか?」


 ロリアはちょっと困惑してる。

 ジェシカさんの話があったからか。


「いけません!」


 ジェシカさんが騒ぐ。

 だけど姉さんが俺に


「アルフ、悪いけどジェシカさんを押さえなさい」


 ……りょーかい。


 申し訳ないな、と思いながらもジェシカさんを強めに羽交い絞めにする。


 ……こんな時に言うのもなんだけど。

 良い匂いするし、抱き心地も何かムチっとしてて気持ちいいな。

 ジェシカさん、戦う神官だから身体は鍛えてるからなぁ……


 むぐむぐ言って暴れるジェシカさんを一瞥して、ロリアはしばらく迷って


「わかりましたァ。セリスさんはジェシカさんの仰ったことは間違いと仰るんですねェ」


 そう結論付けたように言い、階段部屋に入り、3階へと上がって行ったんだ。


 するとしばらくして


「上りましたァ。わっち、生きてますよォ!」


 ……大きな声が聞こえて来て。


 俺たちは色々理解した。


 ……本当に性格のねじ曲がった試練だな、って。

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