第86話 何を信じればいいんだ……?

 俺は……


 この階に残った最後の1人が死ぬと聞いた。


 だけどジェシカさんは……


 階段を上ると死んでしまうと言う。


 ……矛盾する。


 つまり、どっちかが嘘なのか。

 どうすればいい……?


 判断に迷い、俺は姉さんを見た。


 すると姉さんは


「……それは本当なの?」


 ジェシカさんの言葉を確認したんだ。

 姉さんの言葉に


「今、囁かれたんです! 階段を上ったら死ぬぞ、って!」


 ジェシカさんは疑われたことが心外なのか。

 かなり強めの口調で、自分の言ってることに嘘が無いことを主張した。


 だけど姉さんは


「それはおかしいわね。あり得ないわ」


 一刀両断。

 否定した。


「階段が使えないなら、上の階に行けない。そうすると、試練とは言えないわ。乗り越えられないんだもの」


 ……冷静。

 言葉の定義的に、ジェシカさんの主張する内容の真実性を疑ったんだ。


 そして訊く


「……ジェシカさん。あなた、全部を語って居ないわね?」


 そんな姉さんの鋭い言葉。

 それに対してジェシカさんは……


 目を、逸らしたんだ。

 図星なのか……


 ジェシカさん、何を隠しているというのか……?


 そこにだ


「セリスさん、私は別のことを言われたぞ」


 さらにリリスさんが手を上げて


 参戦してきたんだよ。

 この暴露合戦に。


 姉さんは視線で発言を促す。

 リリスさんは


「この階で生き残れるのはただ1人。階段を上り切った者、先着1名だけだ」


 ……え?


 聞いたと言ってる囁き内容が全員正しいなら、全員囁き内容が違うじゃないか!

 どういうことだよ? 全部嘘なのか? それとも1つだけが正しいのか?

 俺は混乱する。


「そう」


 姉さんはリリスさんの言葉を聞いて頷き


「私はこの階に1時間以上滞在すると全滅だと言われたわ」


 ……姉さんは姉さんで、違うことを囁かれていた。

 それを今、皆に開示したんだ。


 ……どうすればいいんだ?




 全員が誰かに囁かれていたとして。

 加えてその囁き内容を全て正しいとした場合、安全圏の行動が無い。

 かなり厄介な状況だ。


 この場合、俺たちはどうすればいいんだろうか?


 俺は全メンバーを見回す。

 打開策、誰か閃いてないのか……?


 希望を込めて見回した。


 そのときだった。

 ジェシカさんがいきなり走り出したんだ。


 階段に向かって。

 その瞬間の顔が一瞬見えて


 それは……泣きそうな顔だった。


 全速力で、階段に向かうジェシカさん。


 状況だけ単体で見ると、ジェシカさんが命惜しさに生き残れる1人枠を目指して俺たちを裏切った。

 そういう風に見えるかもしれない。


 だけど


 この場に居る人間に、そんなことを疑う人間は1人も居ない。


 ……居ないはずだ!


 俺はジェシカさんを止めるために飛び出して。

 すぐに追いつき、ジェシカさんを羽交い絞めにした。


「放して下さい!」


 ジェシカさんは半泣きだった。


 それに対して俺は。

 完全無視して、暴れるジェシカさんを無理矢理押さえ込んだ。

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