第16話 断たれていく退路

 はああああ……。

 なんとかなった。


 ティファニーを殴り倒し、その意識を刈り取り。

 手持ちの武器を全部奪い取って。


 色々終わらせて。


 役人に引き渡して見送った後。


「ありがとうございますアルフレッドさん!」


 ジェシカさんが駆け寄って来て、頭を下げてお礼を言ってくれた。

 まあ、俺も別にさ


「いや、ジェシカさんの味方をしたいと思ったからやっただけですし」


 そんな本心を口にして頬を掻こうとしたら


 ちょっと痛くて。

 ……血がついていた。


 あ、そっか。

 矢が掠めたんだっけ。


 ……突撃までの誤魔化しをするために、街中で使っても役人の御用にならない「灯り」の魔法を使ったんだけど。

 あんまり効果無かったな。


 姉さんが機転を利かせてくれなかったら危なかったのか


「姉さん援護ありがとう」


 そう、手を振ってセリス姉さんにお礼を言おうとしたら。


「動かないで下さい」


 ……ジェシカさんにそんなことを言われて。


 頬に、その綺麗な指を添えられた。

 ……ちょっとドキっとした。

 何か、すごくいい匂いがしたから。


 そして


「生命の 力をここに 示しませ」


 真剣な顔でジェシカさんが口にしたのは


 ……祝詞のりと

 神官系魔法は、使用したい魔法の術式を脳内で編みつつ、世界に向けて祝詞で呼びかけて発動させるんだけど。

 祝詞は五音、七音、五音のリズムって決まってるんだよね。


 理由は、そのリズムでないと世界に言葉が届かないから、らしい。


 祝詞が終わると、俺の頬の違和感が急速に消えていく。

 ……おお。


 これが神官系魔法……。


「治して下さってありがとうございます」


 俺がお礼を言うと、ジェシカさんは嬉しそうに口元に手を当てて微笑んで


「これぐらい大したこと無いですわ」


 そんなことを言った。


 そのときだ。


「流石は勇者様すなぁ~」


 なんだか軽い調子の声がしたんだ。

 で、そちらに視線をやると……


 年齢10代前半くらいの女の子が居た。

 背はかーなーり低い。

 そばかすがあって、髪の色が薄緑色だった。


 服装はダボダボの灰色のコートを羽織ってる。

 下は身体に見合ったシャツとズボンだったけど。


 髪型は清潔感はあるけど、整えている感じはしない。

 洗ってるだけ。

 長さは女の子らしさを損なわないレベルで、短くしてる。


 そして、丸眼鏡を掛けていた。


 ん~と


「キミ、誰?」


 知らん子だ。

 何か馴れ馴れしい感じがするけど。


 なので俺はそう訊いたんだが。


 俺の言葉に、その子はニチャと少しキモイ笑顔を浮かべて。


「ワッチはロリア言います~。勇者様の旅路を歌にしたいと思ってましてェ、同行させていただけないかと探しとったんすよ~」


 ……こんなことを言ってきたんだよね。



「アルフレッドさんは勇者様だったんですか!?」


 勇者の名前が出たとき、大騒ぎしたのはジェシカさんだった。

 まぁ、俺は言わなかったけどさ……


 世間一般、ホント勇者なんてどうでも良いんだな。

 噂にすら上がらないなんて。


「一応、期限なしで魔王討伐を命じられています」


 頭を下げて掻きつつ、白状。

 別に自慢のつもりは無い。


 特に誰もすごいとは思わないだろうし。

 そう思っていたんだ。


 だけど


「……魔王の討伐……」


 ジェシカさん、ちょっと恍惚こうこつとした表情を浮かべて


「魔王がいなくなれば、魔物が消えるかもしれないんですよね……」


 そう言って、俺の前で膝を折って来たんだよね。


 えーと……


「是非、ワタクシもその旅にお加え下さい。勇者様」


 ジェシカさんのそんな言葉に。


 俺は……


 ドキドキが半分。

 そして別のドキドキが半分だった。


 そこまで目的意識はありません。

 そんなことが言えない空気になりつつある。

 それを感じ。


 思った……


 魔王の討伐……

 なんて大きな目標なんだ……!

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