第15話 カッコイイよ!

 ティファニーは怒りの表情のまま


「……この女が、私の最愛の人を告発した……」


 最愛の人を告発した……?

 話が見えない。


 見えないけど……


 その声のトーンが小さくなってることに、俺は気づいて。


「何を告発したんだよ……?」


 そう訊き返すと、ティファニーは


 数瞬、まごつく仕草を見せ


 そして


「カレがパーティーのためにやった、止むを得ないことをだ!」


 言った。


 が


 そのとき。

 ジェシカさんの目が光った。


 強い意志の光で。

 同時にハッキリと


「何が止むを得ないことですか!」


 言い放った。


 ……その顔には、糾弾する色があったんだ。




「目の見えない薬草屋の男性から、目ぼしい素材を巻き上げて! 本来金貨で払う代金を銅貨で払うことの何が、止むを得ないんですか!」


 ……強い目だった。

 異論を許さない。

 その意思があった。


 言われた女・ティファニーはわなわなと震え


「全ては格安で必要薬剤を揃えるためだったんだよ! カレの作った催涙弾にはお前も何度も救われただろうがあああ!!」


 鬼のような顔で、そう大音量で吠える。


 ……なるほど。


 大体分かった。


 ジェシカさんが何をやったのか。


 目の見えない薬草屋から、この女の想い人が商品を巻き上げたんだ。

 で、それはパーティーの利益を増幅させるため。

 ジェシカさんを含めた、パーティーメンバー全員の笑顔のため。


 なのに


 ジェシカさんはそれを許さなかった。

 告発したのか……


 目の見えない薬草屋の男性から、商品を自分のパーティーのメンバーが巻き上げていると。


 それでそいつ、どのくらいの罪になったのか。

 そんなことはどうでも良かった。


 俺は……


「ジェシカさん」


 呼びかけた


「……アルフレッドさん?」


 戸惑いを含んだ声。

 自分の過去を暴露され、負い目を感じているんだろうか……?


 例え……あまりに醜悪な罪を犯したとはいえ、自分のパーティーの利益のために動いた人間を、無慈悲に告発して牢屋に送ったことに。


 俺は……


「アンタ、カッコイイと思う」


 情に左右されずに、自分の信じた正義を貫く。

 俺はそういうの……本気でカッコイイと思うんだ。


 それにさ……


 自分の告発に何も感じていないわけじゃないから、負い目を感じてるんだろ。

 ひょっとしたら、それでパーティーが崩壊したのかもな。


 俺はそこも、敬意を持ってしまう。


 休みなしのブラック環境で2週間働いて来たけど。

 それを許してしまえるくらいに。


「何がカッコイイだ! その女のせいで、私の恋人は懲役5年を喰らったんだぞ!」


 激昂して喚くティファニー。

 俺は


「知るかボケ! 量刑に文句あるなら役所に言えクズが!」


 それを一喝する。

 そして


「お前の恋人が牢屋に投げ込まれたのは全部お前の恋人が悪い! それは誰のせいでもない!」


 ……言ってやった。


 俺の言葉に、ティファニーは俺を殺さんばかりに睨みつけてくる。

 そして弓を引き絞り……


 狙いをつけてくるまでに、突っ込んだ。


 ……それまでに術式を編んでいた魔法を解放しながら。


 それは


「……光の玉……?」


 ジェシカさんの言葉。


 俺が魔法で生み出したもの……それは光の玉。


 暗い洞窟や、夜道を歩くときにランタンの代わりに使う魔法だ。


 俺はそれをぶつけるように放つ。


 だがティファニーはそれを無視して矢を引き絞った。

 囮であり、時間稼ぎだと見抜かれたか。


 でも……


 発射の瞬間、ティファニーの横合いから、大きなトレイが飛んできたんだ。


 ……飛んできた方向には、投擲姿勢で停止している姉さんが居た。

 近場に遭ったトレイを、あの女に投げつけたんだ。


 ……1人は辛いよな……!


 一応、矢は飛んできたし、俺の顔の横を飛んで行き。

 俺の頬を浅く切り裂いたから。


 姉さんの機転が活きたのは確か。

 無かったら命中していたかも。


 そして


 俺は間合いを完全に詰めて、ぶつかったトレイで意識の集中を乱したティファニーの側頭部に


 頭を割ってしまわないように手加減をしながら、拳を叩き込んで。


 ……問答無用で、殴り倒したんだ。

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