第14話 裏切り者

 俺は矢の飛んできた方角を見る。

 そこには弓を構えた女がいた。


 年齢は多分アラサー。

 革鎧で武装し、マントを羽織り、矢筒を背負い。


 手入れが適当なのか、少し傷んだ感じの茶色の長髪で。

 武器として長弓と、腰に小剣を差している。


 ……その女は憎悪に塗れた表情でジェシカさんを睨みつけ


 長弓を構えていた。


 ……ここで武器だって?

 大事だ。


 間違いなく大騒ぎになる状況。

 一体何を考えてるんだ!?

 捕まるのを覚悟しているとしか思えない!


 俺は


「アンタ正気か!? こんなところで弓を引くって何を考えてんだ!?」


 衝動的に叫んでいた。

 それぐらい常識外れの出来事だったんだ。


 絶対捕まり、破滅する。

 街中で矢を撃つような人間、ただですむわけがない。


 すると


「黙れやかましい! そこをどけクソガキッ!」


 女は、かなりドスの利いた声でそう怒鳴りつけてくる。

 気の弱い奴なら確実に萎縮する声量。


 ……どれほどの怒りなのか。

 その声に、女の深い憎しみを感じる。


「……ティファニーさん」


 そこに。


 石畳の上から、倒れたジェシカさんの動揺した声が聞こえて来たんだ。




「ジェシカさん、この人を知ってるの?」


 俺の問いに


「……昔の仲間です」


 倒れたまま、ジェシカさんは応えてくれた。

 ……昔の仲間……?


 なんで、昔の仲間に命を狙われているんだ……?


 混乱してしまう。


 そしてジェシカさんの言い方。

 そこには何だか後ろめたさがあった。


 そこが、気になる。


 ホント、何があったんだ……?


 すると


「その女はなッ!」


 ティファニーと呼ばれたアラサー女性が怒りの声で叫ぶ。


 怒りで、続ける。


「長年の仲間を売ったんだよッ!」


 ……え?


 俺は思わず、倒れているジェシカさんを見る。

 ……仲間を……売った?


 信じられなかった。

 この人、狂信者だろ……?


 それはつまり、裏を返せば神様に恥ずかしい生き方をしていないってことなんじゃないのか……?

 だからこそ狂信者……


 俺の困惑。

 その視線に気づいたんだろうか。


「売ってません……! アレは仕方ないことです……!」


 ジェシカさんはそう、絞り出すように。


 その言葉に


「黙れクズがッ!」


 ティファニーは言いながら、矢筒に手を伸ばしていく。

 俺はそれを見て、ジェシカさんとその女の射線を塞ぐ位置に立ちはだかった。


 そして


「……させるかよ」


 俺はハッキリ言い放った。


 俺は信じる。


 俺たちのパーティーリーダーはそんなことをしたりしない。

 この女の言うことを、額面通りに受け取ってはいけない……!


 きっと何か理由がある。


 にらみ合い、対峙する。


 そこに


「……人をクズ呼ばわりするなら、ここにいる人間を説得できるその根拠をあげたらどうかしら?」


 姉さんが、一言。

 訊いたんだよ。


 このティファニーという女に


 答えられないと、お前の言葉は後ろ暗いんだろうと言われている気持ちになる声で。

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