第59話 再会

 一応「中で食事しなければまた戻って来られる」かもしれない、という可能性は高いけど。

 あくまで可能性だからな。確定情報じゃない。


 町に踏み込むとき、かなりの勇気が要った。


 全員で町に入り、進んでいく。

 明るい町だ。

 元々居た場所は夜だったけど、進んでいくと完全に昼の世界になる。


 明るいのはそのままの意味だけでなく。

 そこらじゅうで活気があり、屋台から良い匂いが漂ってくる。


 ……これでやられたのかね。


 なぁんも知らなきゃ、思わず買い食いしてもおかしくない。


「おや、旅人さん方ですかな?」


 鏡から受け取る情報を頼りに、町を進んでいくと。


 杖を突いた老人に話し掛けられた。


 返事しようかちょっと迷ったが


「ええまあ」


 無視するのは抵抗があったので、返答。

 すると


 次に、微笑まれて。

 こんなことを言われたんだ。


「この町は平和で豊かな町だから、ずっといるといい」


 ごくごく、普通の口調で。

 言ってる内容も、別段異常な内容でも無い。


 なのでつい


 口を開こうとしたけど。


 すかさず、背後から姉さんが俺の口を手で塞いだ。


(返事しては駄目)


 そして耳元で囁かれる。

 姉さんの声には緊張感があった。


(どう考えても、この言葉を肯定することには不安があるわ。絶対に返答しないで)


 俺は頷いた。

 姉さんに背中から抱き着かれて驚いたけど、言われてゾッとした。


 確かに。


 この状況で、はい、なんて答えたら。

 その通りに2度と出られなくなるようなことが起きてもおかしくない。


 そんな事例聞いたこと無いけど、だからといって危険に思える行為はするべきじゃないよな。


 俺は少し罪悪感があったが、老人の言葉を無視した。


 そのまま先に進んでいく。


 ……去り際に、舌打ちされた気がした。


 本当にゾッとした。




 進んでは、鏡を触り、方向を割り出して

 さらに進む。

 それを繰り返して……


 やがて、一軒の飲み屋に辿り着く。

 そこは冒険者の酒場みたいな大きなところではなくて……


 焼き鳥で酒を飲ませる、小さな居酒屋だ。


 数人の客が入ると一杯になりそうな。


 ……ここに、剣がある。


「……こういう店で飲食しないのは抵抗ありますが、絶対にしちゃダメですよ」


 ジェシカさんに俺は言う。

 この人、こういう場面では気を遣ってしまう面あるしな。


 釘を刺しておかないと。


「それは、ハイ、勿論です」


 頷く。

 ……失礼なことを言ってしまったか。


「私も当然それぐらいは理解しているぞ。勇者様」


 リリスさんも同じことを言ってくる。

 自分も言われると思ったのか。


 ……うーん、俺に対する信頼が下がったら嫌だなぁ。


「失礼しました。行きましょう」


 なので一言謝り、俺は居酒屋のドアを開いた。




「いらっしゃい」


 中は中年女性が切り盛りしている店で。


 カウンター席に数人の男女が腰掛けている。

 店内は、焼き鳥の良い匂いが充満していた。


 テーブル席が1つだけあり、そこが空いているので流れで座りそうになるが……

 そうはしないで、俺はリリスさんに


 鏡を出してください。


 そう言おうとしたんだ。


 ……けれど


「……お前ら、ひょっとしてセリスとアルフレッドか?」


 男性の声がしたんだ。

 カウンター席の方だ。


 いきなり名前を呼ばれたので驚いた。

 驚いて、弾かれたように視線を向ける。


 すると、そこには。


 ……何だか、俺と顔つきの似たおっさんが居たんだ。

 年齢は30才くらいかな?

 特に太ってない。

 見たところ、剣士。

 革の鎧を身に着け、赤いマントを身に着けて。

 腰には一振りの剣を下げている。


 見覚えは無い……

 ただ、目つきが……


 丸い目と、茶色の髪が俺と似てる気がする。


 そんなおっさんが、俺たちに視線を向けていた。

 カウンター席のひとつから。


 えっと……


 誰アンタ?


 そう言おうと思った。

 けど


「……お義父さん?」


 姉さんが発したその言葉で。

 色々、理解できてしまった。


 ……顔を忘れていた。

 別れたの、7才のときだったから。


 顔を覚えて無いんだよ。


 ……俺の父親……


 勇者……アルティア。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る